再び目を開けると、リョウが近づいてきて、命の巫女がシュウのそばへ駆け寄っていくところだった。光と音で頭がおかしくなりそう。
「目を閉じてろ。大丈夫だ。あの程度なら2人でそう長いことかからずに倒せるはずだ」
「見えない方が不安なの。…ねえリョウ、この光と音と匂い、リョウは平気なの? あたし気持ちが悪くて変になりそうだよ」
「俺は慣れてる。おまえは人工的なものに慣れてないだけだろう。目を閉じて、耳は俺がふさいでてやる。匂いは…どうしようもないか」
そう言うとリョウは、目を閉じたあたしを胸の中に抱きしめてくれたの。腕で耳をふさがれると唸るような音はほとんど聞こえなくなって、鳴き声も足音もずっと弱まってくれた。あの変な匂いだってリョウの匂いに打ち消されてほとんど感じないよ。そうしていると、今まで自分が狂ってしまいそうな気がしていたのに、それが嘘みたいに穏やかな気持ちになっていった。
五感が正常に戻っていくにつれて、影の気配や神様の気配も感じられるようになっていく。あたしを排除するように現われた影の手下たち。ここは間違いなく影の国なんだ。影の本体が、あの変なクモみたいな生き物を操っている。
「リョウ、ありがとう。少し落ち着いてきた」
もしかしたらリョウは何か言おうとして、でも耳をふさいでるあたしには聞こえないってことに気がついたのかもしれない。耳に当てた腕を動かしかけたような気がしたから、あたしはあわてて言ったの。
「お願い、そのまま動かないでいて。手を離さないで」
あたしの声が届いて、リョウが再び抱きしめてくれたから、あたしはその状態のまま神様に呼びかけてみた。
ろうそくの炎を灯さなければ、神様にはあたしの居場所が判らない。でも今は、神殿で感じるよりもずっと近くに神様の存在を感じることができる。あたしは神様の前に心を開いて同化しようとした。そして、そんなあたしの心の動きに神様は答えてくれたんだ。
感覚を広げると見えてくる。シュウと命の巫女が炎を放つ先に無数に現われた獣と、それを動かす影の意志。2人はもうかなりの数の獣を動けなくしていて、でもあたしが最初に見たときよりも影の数はずっと増えていて、まだ半分近くは残っていたの。あたしは神様に2人の心を伝える。この獣たちを、この場所から消して欲しい、って。
祈りの効果は絶大だった。程なくして、影の気配はすべてこの場所から消え去ってしまったんだ。
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