聞こえてきたのは人の声じゃなかった。獣の鳴き声のような、でもそれよりはずっと無機質で、感情が感じられない。
「なんだこのサイレン。オレたちが入ったことが判ったのか?」
「急に影の意識が強くなったの。シュウ、この扉で間違いないよ。ここには影本体の意識が感じられる」
「神の本体もセットでか。…くそっ、目がチカチカする」
あたりに響き渡る声はそれほど大きくなかったけど、頭が痛くなるような感じだった。まるでトンネルそのものが怒っているみたい。でもけっして感情的ではなくて、すごく正確に同じ声を繰り返しているの。
「シュウ、来るぞ! 命の巫女はユーナを守ってくれ!」
「判ったわ!」
その緊迫したやり取りに耐えられなくなって、あたしは身体を起こして薄目を開けていた。そこで見たのは、あたりを行き交う赤や青の光の渦と、やがてトンネルの一方からわらわらとやってくる何かの姿だったの。
手足の長い虫のような、でも人の背丈の半分くらいはある獣だった。恐ろしさに一瞬で目を閉じてしまったけど、その姿を脳裏に焼き付けることはできた。いくつもの金属を複雑に組み合わせて作り上げたクモのような形をしている。ちょっと見ただけでも10体以上はいて、彼らはみな獣鬼やセンシャと同じ影の気配を持っていたんだ。
「炎の玉、出ろ!」
そう、シュウの声が聞こえた次の瞬間、遠くで何かが崩れるような音がした。少しの間は近づいてくる足音が消えて、でもすぐにまたたくさんの足音が迫ってくる。
「その攻撃は効くようだな。シュウ、その火の玉はあと何回出せる」
「さあね。…炎の玉出ろ! オレが疲れたら終わりだ」
「そのまま近づかせるな。数はさほど多くない」
「気楽に言うな! クッソ、てめえ手伝う気がないなら下がってろよ。ユーナとポジション交代しろ!」
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