無理矢理例えるなら、風が強い日に物干の洗濯紐がうなっているみたいな音。風はまったくないのにその震えるような低い音がずっと続いているの。トンネルそのものはけっこう広くて、天井までの高さも人の背丈の3倍くらいありそうだった。幅も同じくらいで、床が平らになっている以外はほぼ真円を描いてくりぬかれていた。
 トンネルの先がどのくらい続いているのかは判らない。どちら側を見ても壁を走る光が放射したり収束したりしていて、しかも独特の鉄を焦がしたような変な匂いと震える音があいまって、あたしは頭がくらくらしてきたみたい。気がついたときには倒れかかった身体をリョウに抱きとめられていたんだ。
「大丈夫か?」
 なんだか気分が悪いよ。普通に立っていられなくて、察したリョウがあたしを床に座らせてくれた。
「目を閉じていろ。少しは気分が落ち着くだろう」
「できるだけ光を見ない方がいいわよ。こういう光で発作を起こす人もいるみたいだから」
 リョウが手のひらで視界を覆ったから、あたしはリョウの腕にもたれながら目を閉じた。どうやらあたし以外はみんな平気みたい。あたし、自分ひとりだけ倒れてしまったのがすごく恥ずかしく思えた。
「…ここが影の国なの?」
 今のあたしには周りの気配を感じることなんかできなかった。あたしがつぶやくと、ほんの少しの間を置いて命の巫女が答えてくれる。
「今までの場所よりもずっと神様の気配が強いみたい。でも影の気配はないわ。…ううん、ちょっと待って!」
 その時だった。急に周囲の光が強くなった気がしたの。目を閉じていても判るくらいの変化だった。そして次の瞬間、あたりに何かの声のようなものが響き渡っていたんだ。
「命の巫女。ユーナを頼む」
 今までよりもずっと緊張したリョウの声がして、あたしは床に寝かされる。そのあとリョウが立ち上がったのが気配で判った。
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