「どう? 理解できた?」
もう、口を挟むことすらできなくなっていたあたしは、シュウの質問には黙って首を振ることしかしなかった。
「今の話を簡単にするとね、要するにこの扉の空間は、影が自分の都合のいいように次元の扉を並べたものなんだ。行き先は祈りの巫女が生きている時間の村と、オレたちがいる時間のオレたちが住んでいる場所。影はおそらく、必要に応じて扉を開いていって、無造作にこの空間に並べたんだろうね。で、そのままだと何がなんだか判らなくなるから、扉に目印の文字と色をつけて識別できるようにした」
今度の説明はあたしにも判った。でも、どうして最初からこの説明してくれなかったんだろう。いきなりシュウの国の年号の話なんかしなければ、あたしだってこんなに頭を悩ませなくて済んだのに。
「つまり、この場所は影が自分で作ったのね」
「場所は判らないけど、扉は間違いなく影が作ったものだよ。で、前にも少し説明したけど、この扉を作ったのは片手の指が5本の知的生命体だ。オレはこういう形態の生物を人間以外に知らない。そして、オレたち人間が知らない生物が人間の歴史を変えようとするなんて、そんな理屈に合わないことをオレは信じることができない」
あたしは、シュウの言葉に背筋がぞくっとするのを感じた。
「…人間、なの? 影は。…あたしを殺そうとしてるのって」
「さあ。正直言ってそう断言できるほど材料がないのも確かだよ。君やユーナに力を与えている神の正体もぜんぜん見えないしね。それについてはまあ、まったく仮説を立ててないとは言わないけど。ともあれ、影の世界へ行くことができる扉は、逆に言えばオレたちがいない時間のものになる。…見つけたかな」
遠くで命の巫女がシュウを呼ぶ声が聞こえてくる。しばらく待っていると、とつぜん扉を突き抜けて命の巫女が走ってきたんだ。
「シュウ、見つけたよ、1つだけ赤い扉。でも黄緑色の扉は見つからなかった。もっと探した方がいい?」
「ああ、探さなくていいよ。今祈りの巫女と歩きながら話してて黄緑色の謎が解けた。その扉はおそらく開かないか、入ってもいいことはないよ。なにしろ未来の扉だからね、今のオレたちには役に立たないんだ」
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