「そうか」
そう、一言だけつぶやいて、リョウはあたしの肩を引き寄せた。だからそのときのリョウの表情は見えなくて、あたしは自分が必死でついた嘘がばれたのかそうでなかったのか、判断できなかった。
リョウに連れられて戻っていく間も、あたしはうしろ髪を引かれる思いだった。あの扉の向こうにいたリョウ。あのリョウには、もう2度と会うことができないんだ、って。
リョウ、そしてシュウ。あたしはあたしのために失ったものを、これからどのくらい背負っていかなければならないんだろう。
やがてあたしは、今そばにいてくれるリョウさえも失うことになる。
再び命の巫女たちの元へ戻ると、食事を終えたシュウがまた床に何枚もの紙を広げているところだった。
「お帰り、祈りの巫女。――もう大丈夫なの?」
シュウが言ったのは、おそらくさっきの扉でショックを受けたあたしを気遣っての言葉だったのだろう。
「ええ、大丈夫。心配をかけてごめんなさい」
「大丈夫ならそろそろ出発しよう。さすがにオレもこの扉だけの風景には飽きてきたところだ」
シュウが紙をまとめて立ち上がった。あたしは驚いてシュウを見上げたの。
「外へ出られる扉が判ったの?」
「正確にいえば判ってない。だけどおおよその見当だけはついたから、あとはもう足で探すしか方法がないんだ。祈りの巫女、この紙を持って、最初の2桁がこの文字で始まる赤か黄緑の扉を探して。おそらくそのどちらかが影の世界へと通じてるはずだから」
あたしは反射的に紙を受け取っただけだったけど、うしろにいたリョウが言った。
「間違いないのか? この数字は何なんだ」
「オレたちの世界が1900から2000番台、君らの世界が1400から1500。これはそのどちらにも当てはまらない、2100番台の扉だ。それ以外の数字がついた扉はここにはない。つまり、この扉はオレたちか、もしくは君らの未来の世界へ通じてるはずなんだ」
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