この扉の向こうに、あたしが小さいときから大好きだったリョウがいる。ずっとあたしを愛してくれたリョウ。命の巫女の騎士じゃない、祈りの巫女の騎士だった、あたしのリョウ。
 扉を開ければリョウに会える。…会いたいよ。あたしは、本物のリョウに会いたい。
「シュウが何度か1人で入ってるからな、おそらく危険はない。1人で入りたいならそうしてもいい。俺はここで待ってる」
 扉を見つめていたあたしは、リョウのその声で我に返ったみたい。…そうだよ。どうしてリョウがそんなことを言うの? だってリョウはずっとあたしに隠しているのに。自分が命の巫女の騎士だってこと。
 あたしが気づいていることを、リョウは知らないはずなのに。リョウは判っているの? それとも、リョウはあたしを試そうとしているの…?
「どうして? リョウはどうしてあたしにこの扉を見せようとするの?」
 リョウは少し戸惑っているように見えたけど、その答えは既に用意していたみたいだった。
「俺ひとりで見てもよかったんだが、俺が見たいならおまえも見たいだろうと思っただけだ。ここには俺の記憶がある」
 …ああ、そうか。記憶を失ったリョウなら、過去の自分を見たいと思ってあたりまえなんだ。リョウがあたしに対して記憶喪失のリョウを演じてくれているなら。
 もしもこの扉に入ったら、あたしは隠し通すことができるだろうか。リョウがあたしのリョウじゃないって気づいていること。…たぶん隠し通せない。この嘘が明るみに出てしまうだろう。
 真実を隠し通している間だけ、リョウはあたしのリョウでいてくれるのに。
「…入らなくて、いいよ、リョウ。だってリョウはここにいるんだもん」
 リョウは一瞬身体を硬くしたけれど、表情を変えることはしなかった。
「俺の記憶は? 戻らなくてもいいのか?」
「本当に戻るときがくれば自然に戻るよ。あたし、そう思うことにしたの。だからこんな風に無理やり戻そうとしなくてもいいよ」
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