会話が途切れて、しばらく互いが自分の思いに沈んでいたとき、シュウを伴ってリョウが帰ってきていた。
「お帰りシュウ、ずいぶん遠くまで行ってたみたいね」
「ちょっとね。扉を見ながら頭を冷やしてた。オレの分のサンドイッチ、まだ残ってる?」
「これが最後の1つ。食べないで取っておいてあげたんだから。感謝してよね」
シュウはなんだか機嫌が悪いみたいで、座り込むと憮然とした表情でサンドイッチを食べ始めた。そんなシュウと命の巫女が会話するのを見ていたあたしの肩をリョウがつついたの。あたしが視線を向けると、リョウは仕草で立ち上がるように言った。
そのままリョウがどこかへ歩いていったから、あたしもそのうしろについて歩き始めたの。リョウは手に持った紙と並んだ扉を見比べながら歩いていって、やがて1つの扉の前で足を止めてあたしを振り返ったんだ。
「だいたい1年前か。…これ以上探し回っても見つかるかどうか判らないからな、こんなもんでいいだろう」
「リョウ? いったいどうしたの? なにか探してるの?」
「シュウの奴が約束を破って扉を開けたらしい」
そう言ったリョウはほとんど無表情で、あたしはどう反応していいのか判らなかった。無言で答える。
「無事で戻ってきたからな、それについては俺も怒る気はないんだ。そのシュウの話によれば、扉の色はどうやら干渉の度合いを表わしているらしい。水色の扉が6割以上占めてるんだが、この扉の中は俺たちの干渉も、影の干渉も受け付けないんだ。だからこの扉の中は安全だってことになる」
リョウはさっき選んだ水色の扉をこぶしで1回たたいて、先を続けた。
「ほぼ1年前だ。俺とおまえが婚約して最初の夏。この扉の中には、記憶を失う前の俺とおまえがいる。干渉はできないから見るだけだ。…おまえ、扉に入ってみたくはないか?」
少しの間、あたしは意味が判らなくて呆然としていた。でもしばらくして気づいたの。この扉の向こうにはリョウがいる。そのリョウは記憶を失う前のリョウ。あの日死んでしまった、あたしのリョウがいるんだ。
次へ
扉へ
トップへ