リョウはしばらく戻ってこなかったから、2人を待っている間あたしと命の巫女はずっと話をしていた。
「さっきはごめんなさい、左の騎士を救えなくて。…こんなこと、謝っても済むことじゃないと思うけど」
「いいのよ。あたしはシュウを救いたいと思ったけど、シュウは現実に死んでるんだもん。決まってしまった運命を動かすことは最初からできなかったんだと思う」
「あの時ね、少しだけ左の騎士の記憶が流れ込んできたの」
 見ると、命の巫女は何かを思い出そうとするように視線を遠くに向けていた。
「あのシュウは5歳の自分が祈りの巫女を助けられなくて、そのことにずっと負い目を持っていたの。あなたを守ってあげるって、ずっと助けてあげるよって言ってたのに助けられなかった、って。…ずいぶん後悔したみたいよ。そもそもあんなところで遊ばなければユーナは沼に落ちたりしなかったのに、とか。こんなに早く死んじゃうならもっともっと優しくしてあげればよかった、って」
 あたしが覚えているシュウは誰よりも優しかった。本当に優しくて、それなのにシュウはもっと優しくしてあげればよかったって、そう思ってくれてたの?
「だからあなたが死んだあとのシュウはしばらくの間、まるで人が変わったみたいに落ち込んでた。でもその苦しみから立ち直って、あなたを守る代わりに今度は村を守る神官になったの。知識をたくさん得ることで村を守って、あなたに恥ずかしくない生き方をしよう、って。…だからね、最期にあなたを助けることができて、シュウは満足していたよ。やっと約束を守ることができた、って」
 あたしが死んだ世界で10年間生きてきた、シュウの人生をあたしは知らない。でもそんなシュウの人生が無駄だったなんて思いたくない。短い時間の中でシュウはきっと精一杯生きていた。精一杯生きて、精一杯考えて、それで出した結論が過去のあたしを助けることだったの。
 シュウの結論を否定することは、シュウの10年間を否定することなんだ。だからあたしが嘆いちゃいけない。あたしはあたしの左の騎士を誇りに思うよ。
 シュウが信じてくれた祈りの巫女としてのあたしを、あたし自身も信じていかなければいけないんだ。
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