「あのチビども、いったいいくつだよ。ずいぶんませたガキだなおまえ」
「そんなもんだよ子供なんて。…でね、あのあとしばらくしてリョウチャンは引っ越していって、あたしも別のところへ引っ越しちゃうんだけど、最近になって偶然再会することができたの。あたしの方はぜんぜん気づかなくて、でもリョウチャンの方は気づいてた。それなのにリョウチャンはあたしにそう言ってくれなかったの。シュウに口止めまでしてあたしに自分がリョウチャンだって隠そうとしたの」
――たとえ村がなくたって、シュウにはその先の人生がすごく長くあったはずなのに。あたしを助けなくてもシュウは生きていけたよ。
「この説明じゃ判ってもらえないかな。でも聞かせて。リョウはどうしてだと思う? リョウチャンがあたしを無視してたのはどうしてだったと思う? シュウがあたしのことを好きだって知ってたから、リョウチャンはシュウの気持ちを考えてあたしを遠ざけようとしたの?」
――シュウはどうして自分の命を捨ててまであたしを、村を救おうとしたの? 村のために自分を犠牲にしようとしたの?
「そいつの考えることなんて、俺には判らねえよ。だいたい人間は自分のために行動するもんだろ? それが誰かのための行動だなんて考える方が間違いだ。おまえが気にすることじゃねえよ」
この時、今まで聞こえていただけの声が、あたしの頭の中に直接響いた気がした。
リョウの声、言葉の意味が判る。かすかに身じろぎしたあたしをリョウが覗き込む。視線を合わせて、リョウが微笑んでくれる。
「腹が減ってないか? 今ならミイが作ったサンドイッチがある。これがなくなったらあとはハムとチーズだけの食事になるぞ」
「祈りの巫女?」
聞こえた声に顔を上げると命の巫女がいた。もっとはっきり身体を起こしてみる。相変わらず扉がたくさん並んだ風景は変わっていなくて、なぜかシュウだけがその場にはいなかったんだ。
「食事中? …シュウはいないの?」
「1人で癇癪起こしてすねちゃったの。そのうち帰ってくるから心配は要らないわ。ほら、サンドイッチ、祈りの巫女の分もあるのよ」
「ぜんぶ食っちまってもかまわないだろう。食事時に帰ってこない奴が悪い」
リョウにサンドイッチを手渡されてぼんやり食事をしていると、不思議とさっきまでの疑問から自分が解放されていることに気づいたの。
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