――あたしはシュウを助けられなかった。せっかくあの時間に戻ることができたのに、あたしの祈りの声を神様は聞いてはくれなかった。どうしてシュウはあたしを助けようとしたの? あたしを死なせてしまった負い目を持っていたから? それとも、成長したシュウは神官になって、タキやセトのように巫女を守る役目を自覚したからなの?
「サンドイッチがある。これならリョウも片手で食べられるわね。…あたしたちの世界のパンよりもちょっと固めかな。祈りの巫女の顔に中身を落とさないように気をつけて」
――幼い頃、あたしを守ると約束してくれた、その約束を果たそうとしてくれたの?
「ああ、すまない。…ユーナ、おまえも腹が減ったんじゃないのか? 起き上がれそうなら食っておいた方がいい」
――シュウは、自分にはできなかったことでも、あたしにならできるって言ってた。シュウは自分の命よりもあたしの命の方が重いと思ったの?
「まだ無理みたいね。仕方ないよ。目の前で幼馴染が死んだところを見せられたんだもん」
「そのうち起きる。こいつはいつまでも落ち込んでられるほど気が長い奴じゃない」
「信じてるんだ。リョウは誰かさんと違っていい恋人だね」
「…知っているだけだ。あいつもおまえのことなら判ってるだろう」
――答えが出ない疑問ばかりを繰り返していた。あたしを助けてくれたのがあの幼いシュウだと思ってた時なら、こんなたくさんの疑問を持たずに済んだのに。5歳のシュウは自分の死に対する恐怖なんかなかったかもしれない。だけど、あたしを助けてくれたのは、あたしと同じ16歳のシュウだったんだ。
――死にたくなんか、なかったよ、ぜったい。たとえ村が死んでもシュウは生きてたもん。これから先いくらだって生きることができたはずなのに。
「さっきね、小さなあたしを見たでしょう? あの頃のあたし、リョウチャンていう男の子のお嫁さんになろうと思ってたの。ほら、あの部屋で最後にチラッと出てきた男の子」
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