「――あのシュウはね、別の歴史を歩んだ未来の村から来たんだと思う。未来とはいっても、あの沼の時間から見れば未来ってことで、実際には祈りの巫女とほとんど同じ時間から。その歴史の中でもやっぱり村は災厄に襲われていて、でも祈りの巫女がいなかったために村は滅んでしまったの。だからあのシュウは歴史をさかのぼって祈りの巫女を助けようとした」
「だが、命の巫女がいなければあいつはここまでこられなかったはずだろう。祈りの巫女の騎士の力では命の巫女の力を操れないんじゃないのか? 左の騎士が歴史を変えられなければ、今ユーナも命の巫女もここにいなかったはずだ」
「つまりは予定調和だったんだ。オレたちがここにいるのも、この扉を開けてユーナが騎士の力を助けたのも」
 ――3人が話している声をあたしは聞いていた。だけどその声は遠くて、言葉の意味があたしの頭の中に入ってくることはない。
「予定調和? なんだそれは」
「原因と結果が時間軸を無視して存在していた、ってこと。原因が出現した瞬間には結果も既に存在しているんだ。左の騎士が過去へ戻ろうと決心したときに、その結果として生きている祈りの巫女とその祈りで呼び出されたオレたちが存在しているから、ユーナが騎士をあの時間へ呼び込むことができた。同時に、左の騎士が死ぬ結果も存在しているから、オレたちが幼いシュウを救うこともできなかった。要するに最初からこの結果が出ることは決まっていたんだ」
「あたしたちがここへ来ることも決まってたの? あの扉を開けることも?」
「そういうことになるかな。それどころか、本当はもしかしたらこの先の未来も決まってるのかもしれない。これからオレたちがどう行動して、結果村を救うことができるのか、それともここで殺されることになるのかも」
「そんな…」
 リョウがあたしを抱きしめていて、時々心配そうに顔を覗き込んでくれる。あたしは目を開けていたけど、リョウと視線を合わせることはできなかった。死んでしまったシュウの言葉が頭の中をぐるぐる回っている。
「時間に関してはオレにもエスエフショウセツ程度の知識しかないんだけどね。過去に戻って歴史を変えたらどうなるか、なんて命題はけっこう頻繁に扱われてるよ。だけどここでこんなにはっきり予定調和の実証例を見せられるとは思ってなかった」
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