「判った。謎解きはおまえに任せる。次に入る扉を指示してくれ」
シュウは床に散らばった数枚の紙を集めて、あたしとリョウが最初に調べた扉の方へ向かって歩き出した。あたしたちもシュウのあとについて歩いていく。シュウが足を止めたのは紫色の扉の前だった。
「祈りの巫女、1491年の3月28日にあった出来事を覚えてる? …まさか覚えてないよね、10年も前のことなんて」
あたしはゆっくりと記憶をめぐらせて、その日付の意味に気づいてドキッとしていた。
「シュウが死んだ日だわ。沼に落ちたあたしを助けて」
とっさにシュウが動きを止めたのは、きっと自分の名前と死んだという言葉が一緒に耳に飛び込んできて、そのことに単純に驚いたからだったんだろう。やがて意味が飲み込めてきたのか、あたしの痛みをいたわるように目を細めた。
「だったらこの扉に入るのは祈りの巫女にとってつらいことになるかもしれないな。この日付に意味があることが判っただけでもオレの推測が間違ってないことは立証された訳だし、無理に見る必要はないよ。ほかの扉へ行こう」
そう言ってシュウは歩きかけたけど、あたしはその扉の前を動くことができなかった。だって、もしもこの扉がさっきと同じように過去の場面を見せてくれるのなら、あたしはシュウに会うことができるかもしれないんだ。さっき小さな命の巫女に触ることができたってことは、もしかしたらシュウを助けることだってできるかもしれない。あの時はまだ小さな子供で、あたしには沼に沈んでいくシュウをどうすることもできなかった。でも今は大人になったんだもん。祈りの力も併せて使えば、シュウの命を助けて歴史を変えることができるかもしれないよ。
「この扉の向こうにシュウがいるかもしれないんでしょう? だったら会わせて。あたし、シュウに会いたい」
扉を見つめたままのあたしは、既に歩き始めていたシュウが足を止めて振り返る気配を感じた。
「必ずしも君のシュウがいるとは限らないよ。もしかしたらこの日付はオレたちの世界での1491年を表わしてるのかもしれないし」
「いなくてもいいわ。でももしもシュウがいるのなら、あたしはシュウを助けたい。今のあたしならシュウを助けられるかもしれない」
あたしの言葉は隣にいたリョウの気持ちを動かしたみたい。リョウが扉に手をかけて、シュウの返事を聞かないまま大きく開いていた。
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