目印の開いた扉のところまで戻ると、そこにはシュウがうずくまるように座っていて、命の巫女の姿が見えなかった。
「シュウ、命の巫女は? 一緒じゃないの?」
「別の方角へ行ってもらってる。今のところは危険もないみたいだし、1人でも大丈夫そうだからね。祈りの巫女、悪いんだけど今度はあっちの方へ行ってみてくれる? また10枚分だけでかまわないから」
あたしは今までの紙をシュウに手渡して、もう1度リョウと一緒に今度はさっき通った道筋と垂直になる方角へ歩いていったの。その最初にある扉の文字を見たとき、あたしは思わずつぶやいていた。
「あれ、違う」
「どうした?」
あたしの声を聞きつけたリョウが顔を覗き込んだから、あたしもリョウを見上げて答えていた。
「さっきの文字と違うの。さっきはね、最初の2つか3つくらいの文字が同じ扉が多かったから。でもこの扉はぜんぜん違う文字から始まってる。…どうしてかな。リョウには判る?」
「さあな。俺には判らないことだ。…違うって、見たことがない文字なのか?」
「ううん、そんなことないよ。ぜんぶ書いた覚えがある。…それも変ね。これが文章だったら文字がこんなに少ないはずないもん」
そのあたしの言葉にはリョウは答えなかったから、あたしもそれ以上考えるのはやめて、扉の文字を書き写すと次の扉に向かっていた。そうして何枚かの扉を写したあと、不意にリョウが苛立ったように言ったんだ。
「ほんとにこんなことをしてていいのかよ。こうしている間にも村がセンシャに襲われてるかもしれねえのに」
リョウは村のことが心配なんだ。あたしもけっして村のことを忘れてた訳じゃないけど、でもここへきていきなりセンシャに襲われたかもしれないことを考えると、その時を少しでも先に延ばせたのはうれしいことだった。
「前に命の巫女が未来を見たときには、今日影が襲ってくる予言はなかったわ。この未来は確定してたはずだから、少なくとも今日が終わるまでは大丈夫のはずよ。それに、この場所を通らない限りセンシャは村へ行けないはずだもの」
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