「ここからまっすぐあの方角に向かって、歩いた道に沿った扉を10枚書いたところで戻ってきてくれ。それぞれ扉の色が違うから、それも文字の横に添えてね。くれぐれも無理はしないで。会えなくなったら困るから」
シュウがあたしに指示したのは、あたしたちが最初に出てきた扉の向こう側に見える扉だった。シュウたちは反対側の扉を見ていくみたい。リョウは文字が書けないからあたしが紙とボールペンを持って次の扉の文字を書き始めたんだけど、あたしが書いている間リョウは扉をたたいて調べていたの。やがて扉の向こう側に回ったリョウが扉を突き抜けて戻ってきたから、あたしはびっくりしてしまった。だって、扉の表面からいきなり手が出てきて、そのあとリョウの顔や身体がまるで扉に生えてきたみたいに見えたんだもん!
「リョウ!」
「ああ、おどかして悪かった。確かめたかっただけなんだ。ちょっときてみろ」
そう言うと、リョウはあたしの手を引いて、扉の裏側に回ったの。だけどそこには扉がなかったんだ。本当だったらこちら側からも同じ扉が見えるはずなのに。
「どうして? 扉はどこに消えたの?」
「ちゃんとここにあるさ。途中で立ち止まらないで歩けよ」
リョウに手を引かれて数歩歩いた。そこで足を止めたリョウが振り返る。あたしもうしろを振り返ると、目の前には確かになかったはずの扉が出現していたの。たぶん今あたし、さっきのリョウと同じようにこの扉を突き抜けたんだ。手を伸ばして扉をたたいてみたけど、それは普通の硬さを持っていて、自分がこの硬い扉を通り抜けたことが信じられなかった。
「この扉は片側からしか見たり触ったりすることができないんだ。だから、今見えている扉のほかにも、見えない扉がおそらく2倍以上はある。自分で気がつかないだけで、今まで知らずに通り抜けてきた扉も中にはあるだろうな」
「それじゃ、影のところへ行く扉が見つからないかもしれないわ。今だって100以上も見えるのに、更に見えないものもあるなんて」
「シュウに暗号を解かせるしかないだろう。とりあえずこの方角に見える扉だけを順番に書いていこう」
あたしたちは再び文字を書き写す作業に戻って、10枚書き終わる頃には、あたしにも扉の文字の法則性がおぼろげに見えてきていた。
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