足を止めたリョウはふうっと息を吐いて、うしろからついてきたあたしたちを振り返った。
「扉の中に入るたびにあれが始まるんだとしたら、ぜんぶの扉をしらみつぶしに探す訳にはいかないな。時間がかかりすぎる」
「二手に分かれるか? それだけでもずいぶん時間の短縮にはなるぞ」
「いや、それも避けたい。どちらか片方が正しい扉を見つけたとき、一緒にいなければ取り返しがつかなくなる可能性がある」
「…だったらやっぱ、この暗号を解読するしかないな」
驚いたあたしたちににやっと笑ったシュウは、ポケットの中から小さな本を取り出していた。以前命の巫女が運命を見たときにメモに使った本だ。白紙のページに、今は2行の文字が書いてある。でもそれは村の文字でも古代文字でもなくて、誰にも読むことができなかった。
「扉の上の方に模様が見えるだろう? こいつはそれを写し取ったもので、上に書いてあるのが最初にオレたちが出てきた扉、次が今オレたちが入った扉だ。どちらも文字が8個書いてあるように見える。共通する模様が使われているから、これは文字である可能性が高い」
シュウはいったん言葉を切って、覗き込むみんなの顔をひと通り眺め見たあと続けた。
「オレはもう少し進んだ予測も立ててるんだけど、ひとまずそれはおいといて、まずはデータを集めてみよう。扉の外側を見るだけなら別々に動いてもいいだろ? 仕切り屋のリョウ」
シュウが意地悪く笑ってリョウを見上げたから、リョウもちょっとムッとした顔を見せたの。でも怒り出したりはしなかった。もしかしたら本当は文句の1つも言いたかったのかもしれないけど、リョウ自身、誰も気づかなかった扉の文字に気づいたことでシュウを認めたのかもしれない。
「紙はそいつを破ればいいだろうが、筆はあるのか? そんな複雑な模様を覚えてくる訳にはいかないぞ」
「オレとユーナはボールペンを1本ずつ持ってる。祈りの巫女は? なにか持ってる?」
「持ってこなかったわ。まさか筆が必要だとは思わなかったから」
「それじゃ、オレのを1本貸してあげるよ。リョウと2人で行って書いてきて。オレとユーナが別の扉を書いてくるから」
そう言って、シュウはあたしにボールペンと、本を数枚破いて手渡してくれた。
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