あたしの母さまじゃない。この人はきっと命の巫女の母さまで、姿がよく似てるだけの別人なんだ。それでもあたしにはその人が自分の母さまに見えたの。知らず知らずのうちに、あたしの目からは涙があふれてこぼれ落ちていた。
「祈りの巫女…?」
あたしの急激な変化をいぶかしんで声をかけたシュウを、命の巫女が背中をたたいて制する気配がする。あたしはリョウに肩を抱かれたまま、生きて動く母さまに複雑なものを感じていたの。今、この人が生きていてくれたらどんなに良かっただろう。そのぬくもりを感じることができたのなら。
男の人を見送った小さな女の子が、母さまに似た女の人に駆け寄っていく。女の人は手に赤ん坊を抱いていて、頭の片隅であたしは、その赤ん坊が命の巫女の弟マサオミであることに気づいていた。
『お母さん、サンリンシャであそんで』
『マークンがおねんねするまでは無理ね。シュウチャンはいないの?』
『おでかけしてるの。カヤコチャンもおでかけなの』
『リョウチャンは? きっとおうちにいるわよ』
『うん、いってみる』
リョウの、あたしの肩を抱く手にほんの少し力が入る。女の子は駆けていって、その建物にいくつかある扉の1つの前に立って、ノックしながら声をかけたの。出てきたのはセイに良く似た、でもずっと若い女の人。あたしはリョウの手が震えているのに気づいていた。
『リョウクン、ユーナチャンがきたわよ。ゲームばっかりしてないで一緒にお外で遊んだら?』
『リョウチャン、くるまのせて。ユーナといっしょにあそぼうよ』
『ユーナチャンまだペダルに足届かないじゃない。ゲームもできないしつまんないよ』
『いいから外で遊んでらっしゃい! お母さんこれからお掃除するんだから』
セイに似た女の人に一喝されて、しぶしぶ扉から出てきたのは、まだ6、7歳くらいに見える小さな男の子だった。
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