隣のリョウも目を見開いたままだった。今この3人の中にあるのは懐かしいって気持ちだ。その感情はあたしの中にはなくて、だからちょっと悔しかったのかもしれない。あたしは遊んでいる2人に近づいて、まずは幼い女の子の肩に手をかけてみたの。
「祈りの巫女!」
うしろからシュウの声が聞こえる。あたしはそれにはかまわずに触れると、手には確かに触れた感じがあった。でも女の子にはあたしの姿も見えないし、触れたことにも気づいてないみたい。男の人にも触れてみたけど、結果は同じだった。
「幻じゃないみたい。この人たち、ちゃんとここに存在してる」
駆け寄ってきたシュウにそう伝えると、シュウは1度2人を見て、また視線をあたしに戻した。
「いきなり触ったりして、もし何かあったらどうするつもりなんだ。場合によっては爆発する可能性だって――」
『ユーナチャン、それ以上オニイチャンの邪魔しちゃだめよ』
とつぜん聞こえたその声に、あたしは心が凍りつくほどの衝撃を覚えた。振り返るのが怖かった。息が止まって、心臓がドキドキして、あたしはそこから少しも動くことができなくなっていたの。
『ああ、別に邪魔じゃないですよ。オレ小さい子大好きだし』
『お母さん、今ねえ、ダイチニイチャンがサンリンシャ押してくれたの。ビューンてね、すごくはやいの』
『そう、それは良かったわね。でもダイチクン、今日はいつもの彼女とデートじゃないの? ずいぶんのんびりしてるけど』
『あ、いけね。エキマエでミイと待ち合わせしてたんだ。間に合うかな。…ユーナチャン、今日のところはごめんね。また遊ぼうな』
『…うん、わかった。バイバイ、オニイチャン。またあそぼうね』
うしろで会話が交わされている間に、リョウがあたしに近づいてきて、そっと肩を抱いてくれる。きっとリョウには判ったの。あたしがどうしてとつぜん立ち尽くしてしまったのか。リョウに勇気をもらってようやく振り返る。そこには、あたしが覚えているよりもずっと若い姿をした、あたしの母さまによく似た人がいたんだ。
もう、2度と会えないと思ってた。姿を見ることもないって。
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