「…なんで、部屋の中がいきなり…!」
 うしろからはっきりと聞こえたのはシュウの声だった。振り返ると、そこには明らかに動揺した風に見えるシュウと、不思議そうな顔であたりを見回す命の巫女がいる。隣を見上げるとリョウも目を見張ってる。あたしにはまるで見たこともない風景に、少なくともシュウとリョウは何かを感じているんだ。そして、きょろきょろしていた命の巫女も、なにかに気づいたようにハッとしてシュウを見た。
「シュウ、ここってもしかして…?」
「ああ、おまえが引っ越す前に住んでた町だよ。そこの、右側にある家がオレの家だ。ユーナの家はその向こうのアパート――」
『ダイチニイチャーン、もういっかいやってー!』
 その甲高い声が耳に飛び込んできて、あたしは思わず声の方を振り返っていた。そこには1人の男の人と、小さな女の子がいたの。あたしは男の人の顔を見て驚いた。だってその人は、今のリョウよりも若い姿をしたランドそのものだったから。
 小さな女の子は、たぶん遊び道具なんだろう、金属でできた車のようなものに乗っていたの。そのうしろで車を押してあげているのがランドに似た男の人で、その2人はあたしたちにはまるで気付かないように会話していたんだ。
『もういいだろ、ユーナチャン。ニイチャン疲れた』
『もういっかいだけ。もっとはやくやってー』
『じゃあ、あと1回だけな。そーれ、行くぞユーナチャン!』
『キャーッ! はやいはやいー! おもしろいよー!』
 男の人がうしろから車を押してあげると、女の子は悲鳴を上げながら喜んでいた。男の人の服装は以前見たシュウたちの服によく似ていて、ようやくあたしにもここがシュウがやってきたのと同じ世界なんだってことが判ったの。ランドに似た男の人と、幼い女の子。
「あの子、あたし…?」
 命の巫女が口にした言葉で、あたしは自分の考えを裏付けられた気がした。彼女の問いにはシュウが答える。
「だな。たぶんおまえがここにいる頃のエイゾウだよ。一緒にいるのはダイチサンだ。今でもその、正面の家に住んでる」
 シュウの声もどこか虚ろで、目の前の風景に心を奪われているんだってことは判った。
次へ
扉へ
トップへ