シュウが指差す方を、あたしは目を凝らして見てみた。本当にものすごく遠かったけど、確かにシュウが言う扉が見える気がしたの。外開きの扉は完全に開いていて、たぶんあたしたちが見ているのは扉を逆側から見た姿だ。…もしもあそこまで歩いていったらどうなるんだろう。あの扉を通り越したら、再び今立っているこの場所に戻ってくるのかもしれない。
「トラップか。…厄介な場所に出たな」
「一概にそうとも言い切れないさ。ユーナは間違いなく影の痕跡を辿ったんだ。ってことは、獣鬼やセンシャはこの扉を通って村へ来ていたことになる。奴らが日常的にこの扉を使ってたのなら、探せばセンシャたちがいる場所に続く扉もあるはずだ。だいたいオレたちがここへ来ることが奴らに判ってたかどうか」
「それもこれもぜんぶ憶測だ。だが、救いもある。この空間にいる限り影は攻撃してこない確率が高い。奴らにとっては時間稼ぎなのかもしれないが、情報と考える時間を与えられるのは今の俺たちには喜ばしいことだからな」
言い終えると、リョウは扉に手をかけた。一呼吸置いて今度は扉を引いたの。扉の中は薄暗くて、でも再び目が慣れてくると、そこがさっきの部屋と同じような石造りの部屋なんだってことが判った。天井が高くて、広くて、ほかには扉も窓も見つからない。
「入って大丈夫だ。ユーナ、ここにも神の気配はあるか?」
あたしは用心しながら、壁を伝ってリョウの近くまで歩いていった。だってあたしにはどうしても判らなかったんだもん。こんなにしっかりした部屋が中にあるのに、外からは触れることすらできないなんて。自分の手で確かめなければ納得することなんかできなかったの。
「ええ、ここも神様の気配に満ちてるわ。影の気配はまったくない――」
そのときだった。いきなり扉が外から閉まって、部屋の空間が外部と隔離された。その瞬間、驚きに声を上げる暇もなく部屋の中が急に光で満たされたの。まぶしさに目を細めて、ようやく中の明るさに目が慣れてくる。最初に目に入ったのはいくつかの建物。それらは狭い場所にひしめくように建っていて、三方を建物に囲まれた場所の地面にはたくさんの細かい石と、空に色の薄い青空が広がっていたんだ。
今まで感じなかった風の流れが判る。でも空気の中にはかすかな悪臭があって、しばらくいたら息が苦しくなるような気がした。この場所には人の気配もあった。子供がはしゃぐ声に混じって、あたしがよく知っている気がする人の声もかすかに聞こえていた。
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