「祈りの巫女、そんなことをしても無駄だよ。とりあえず先へ行こう」
 シュウの声に振り返ると、リョウはここから1番近い扉に歩いていくところで、そのうしろを命の巫女が追いかけていた。どうやら命の巫女は扉の両側に壁がないことをすんなり納得したみたいね。1人だけ混乱したあたしはなんとなく恥ずかしくなって、今出てきた扉を閉めてあとを追おうとしたの。
「祈りの巫女。その扉は閉めないで。ほかの扉と区別がつかなくなるから」
「あ、はい」
 シュウに言われて閉めかけた扉をもう1度開けて、シュウの隣に並ぶように歩き始めた。リョウと命の巫女は次の扉の前にいて、あたしたちがそこへ行くのを待っていてくれたみたいだった。
「ユーナ、神の気配はまだあるのか?」
 リョウが扉を見つめたまま振り返らずに言ったから、あたしと命の巫女がほんの少し戸惑ってしまった。一瞬だけ、リョウがどちらのユーナに声をかけたのか判らなくなったの。でも命の巫女は遠慮したのか返事をしなかったから、あたしの方が答えていた。
「あるわ。さっきからずっと。相変わらず影の気配もない」
「そうか。…シュウ、ここを抜け出す手段が2つある。扉を1つ1つ確かめていくか、扉を無視してこの空間をどこまでも歩くかだ。おまえはどうするのがいいと思う」
 シュウは辺りをきょろきょろ見回した。全体的に白い空間に、それぞれ違う色のついた扉が無数に立ち並んでいる。この空間がどこで途切れているのかその果てを見ることはできなかった。かなり遠くまで扉は続いていて、その先は白くかすんで見えなくなっていたの。
「もう1つあるぜ。ここに影が現われるのを待って、そいつらの痕跡を辿って新たな次元の扉を開く。ただ、来るかこないか判らない攻撃を何もしないで待ってるのも馬鹿な話だな。…オレは扉を開いて調べた方がいいと思う。おそらくこの空間に終わりは見つからない」
「どうしてそう思う」
「あそこに見えるからさ。さっきオレたちが出てきて、開けたままになってるひとつの扉が。…本物はうしろにあるのに」
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