「なぜなのか判らないけど、ここには神様の気配があるの。それも、神殿で感じるよりもずっと強い気配が」
あたしの言葉に、リョウはあたしを振り返った。
「獣鬼の気配はないのか? センシャの気配は」
「今はないわ。…どうしてなんだろう。命の巫女は影の国への道を開いてくれたはずなのに」
それきり、あたしたちはしばらく自分の考えに沈んでしまっていた。シュウが一言も言わないところを見ると、シュウにもその理由は判らないんだろう。やがて、その沈黙を断ち切るように声を出したのはリョウだった。
「判らないなら考えても仕方がない。…全員怪我はないか?」
あたしたちがうなずくと、それを確認したリョウは扉のある壁に向かって歩き出した。
「どうやら出口はここだけだ。ひとまず外へ出てみるぞ。…ユーナ、俺のそばから離れるな」
あたしがリョウの背中へ寄り添うように近づいたとき、リョウは外開きの扉を押して大きく開いていた。
――外は中よりもずっと明るくて、一瞬目がくらんだあたしにはすぐに様子を見ることはできなかった。
リョウが外へ出る動作に合わせて足を踏み出すと、やがて徐々に目が慣れてきたあたしはその光景を見たの。扉の向こうは外なんかじゃなかった。風のまったくないそこはきっと想像を絶するほど大きな建物の中で、広い空間にはいくつもの扉が無秩序に乱立していたんだ。
異様な風景だった。だって、そこにあったのは巨大な扉だけだったんだもん。どこまで続いているのか判らないほど広い空間に、ただ扉だけがたくさん立っている。本来なら扉の向こうにあるはずの部屋は一切見えなかったんだ。
「…なるほど、そういうことか。ユーナ、うしろを見てみろ」
リョウに言われてうしろを振り返ったあたしは更に驚くことになった。今、あたしたちが出てきた扉。その扉の向こうには石造りの大きな部屋があったはずなのに、扉の両側には壁がなくて、ほかの扉と同じように扉だけが立っていたから。
「おそらく次元の扉の一種だ。扉のこちら側と向こう側とでは次元が違うんだろう。…意識を保ったまま通れるのが救いだな」
あたしにはリョウの言ったことがよく判らなくて、扉の隣の何もない空間に見えない壁を探して手を差し伸べた。
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