「――ナ…ユーナ!」
 あたしを呼ぶ声と、身体をゆすられる感じに目を開けると、目の前にはリョウの心配そうな顔があった。一瞬あたしは何がどうなってるのか判らなかったけど、すぐに思い出したの。あたし、次元の扉を超えたんだ。リョウはほっとしたようにあたしの身体を助け起こしてくれたから、あたしはすぐに周りを見ることができた。
「リョウ、ここは…?」
「さあ、判らない。目が覚めたらここにいたんだ。…シュウ、命の巫女、起きろ!」
 リョウが近くにいた命の巫女たちを起こしている間に、あたしは立ち上がって周囲を見回してみた。ここは石造りの四角い部屋だ。広さはたぶん、神殿と同じくらいはある。周りがすべて石の壁で囲まれていて、1箇所だけものすごく大きな扉がついている。
 ここが影の国? あたしは更に感覚を研ぎ澄ませて、それで気づいたの。…どうして? どうしてこんなことがあるの? だって、ここが影の国なら、周囲は影の気配で満ちていて当然なのに――
「祈りの巫女…?」
 あたしより少し遅れて目を覚ました命の巫女は、周囲を見回しながら困惑した表情を浮かべていたの。きっと彼女の方が強く感じるんだろう。目を合わせて、あたしは命の巫女があたしと同じものを感じていることを知ったんだ。
「祈りの巫女、どうしてここに神様の気配があるの? あたし、間違いなく影の世界への扉を開いたはずなのに」
 周囲を満たしているのは、あたしがいつも神殿で感じていた神様の気配だったの。祈りを捧げて意識を近づけていくと必ず感じていた神様の気配。今は祈りを捧げていないのに、神様の気配はそのときと同じくらいに強く感じる。どうして? 命の巫女が道を間違えたの? それとも、影は神様と同じ国からやってきていたの…?
「ここに神の気配があるのか?」
 リョウは命の巫女を振り返ってそう訊いた。そのリョウの視線は強くて、見ていたあたしには命の巫女の心が揺らいだことが判ったの。こんなときなのにあたし、命の巫女に嫉妬してる。リョウに命の巫女を見て欲しくなかった。
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