「悪いがのんびり食ってる暇はない。食事が片付いたらさっそく道を開いてもらうぞ」
どうやらリョウはピクニック気分とは程遠いみたいで、あたしたちを急かしながら自分も食事をかき込んだ。それからしばらくの間は全員言葉もなく食べ続けていたの。おそらくミイが作ってくれたこの朝食が、影の国へ出発するあたしたちにとって最後のまともな食事になるんだろう。
食べ終わった食器をテーブルクロスに包んで森の茂みに隠す頃には、あたしたちの緊張感も増していた。
「食料だ。全員分担して持ってくれ。ユーナ、そっちの荷物をよこせ。1つにした方がいい」
リョウはあたしの荷物を食料が入っている4つのリュックに分散させて、1番軽い荷物をあたしに持たせてくれた。それで出発の準備は整った。全員が荷物を背負うと、シュウと命の巫女がうなずきあって、まずはシュウが次元の扉を開いたんだ。
「次元の扉、出ろ」
シュウが作った扉はそれほど大きくなくて、高さと幅は人の身長と同じくらいだった。明るい日の光の中で直接扉を見るのは初めてだったんだけど、それは太陽の光に溶けることなく不思議な色に輝いていたの。虹の七色が揺らめくように現われて、でも全体的には黄色に近い色に見える。あたしがシュウの扉に見とれている間に今度は命の巫女が言葉を紡ぎ始めた。
「次元の扉、センシャの痕跡を辿って、影の世界までの道を繋いで」
命の巫女は何度か同じ言葉を繰り返して、やがて言葉を切ったとき、明らかにシュウの扉が変化したんだ。今まで黄色が強く出ていた扉の色が、今度は青色を強調して光り始めたの。
「つながったのか?」
「ええ、たぶん。向こうの様子は行ってみなければ判らないわ。でも、今までの経験からすると、意識のある状態で扉を通るのは不可能なんだ。突然の危険には対処できないけど、運を天に任せて意識を手放すしかない。下手に意識を持ってると扉に弾かれて怪我をするから」
命の巫女の説明にうなずくと、リョウはあたしの手をとって引き寄せた。…あたしたちが先に入るんだ。いいよ、たとえ扉を出た瞬間に影に襲われたって。リョウが一緒ならなにも怖くないもん。覚悟を決めて、あたしはリョウと一緒に扉へと飛び込んだ。
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