あたしたちが森へ入っている間にランドは帰ってしまったようで、そろそろ暗くなりかけているリョウの家はしんと静まり返っていた。はじめに台所へ入って、2人分のコップを持って水場へ回る。そこであらかた喉を潤したあと、リョウはあたしを置いて再び家に入っていったの。戻ってきたときには小さな丸椅子と手ぬぐいを持っていて、その椅子にあたしを座らせたんだ。
「靴を脱がせるぞ」
 どうやらリョウはこのままあたしの怪我を治療してくれるつもりみたい。あたしは恥ずかしさに顔を赤らめてたんだけど、リョウは気にならないみたいで、うなずいたのを確認するとさっさと靴を脱がせにかかった。
 手桶で足に水をかけるリョウを見ながら、あたしはすごく変な気分になっていたの。だって、あたしもう子供じゃないんだもん。リョウにこんなことさせるのってすごくおかしい気がする。これがカーヤだったらこんな違和感はないと思うけど。
「ねえ、リョウ、もういいよ。あとはカーヤにやってもらうから」
 あたしの声にチラッと上目遣いで見上げたリョウは、なんだか少し怒っているように見えた。
「だったら今俺にやってもらっても同じだろ。いいからじっとしてろ」
 リョウが何を怒ってるのかよく判らなかった。でもあたしはリョウに足を触られているのがすごく恥ずかしくて、手当てが終わるまで黙っていることができなかったんだ。
「リョウとカーヤは違うもん。お願い、そのくらいで許して。……あたしもは、恥ずかしいから」
 再び顔を上げたリョウは、今度こそあたしの表情をちゃんと見てくれたみたい。ちょっと驚いたようにしばらく見つめたあと、やがて意地の悪い表情をして笑ったの。もしかしてあたし今、逆効果なことを言っちゃったの……?
「ここまでやったらあとは同じだろ。気になるなら俺をカーヤだと思えばいい。ほら、あとは水気を取って薬をつけるだけだ」
「……やっぱり変だよリョウ。大怪我ならともかく、こんな小さな怪我なのに。わざわざリョウに手当てしてもらうほどじゃないもん」
 あたしが言うと、リョウは下を向いたまま何かを口の中でつぶやいた。でもその声はあまりに小さくて、あたしの耳にまで届いてはこなかった。
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