帰りはのどが渇いていたこともあって、くるときよりも少しだけ息が切れるのが早かった。それで気づいたの。リョウが下へ降りたいと言ったのは、のどを潤す水が欲しかったからなんだ。
「大丈夫か? 疲れてないか?」
リョウは時々振り返って、あたしに声をかけてくれる。それだけで十分だよ。リョウがけっしてあたしを忘れてないってことが判るから。
「一緒に行ってよかったね、リョウ。だって、この森の向こうにあんな場所があるんだってことが判ったもん。それだけで疲れなんか吹き飛んじゃうよ」
答える代わりにそう言うと、リョウはまた少し目を見開いた。
「…そうだな。それが判ったな」
そうつぶやいて、リョウはまた前を向いて歩き始める。きっとどんなに歩きにくい森だって、先になにもないなんてことはないよ。いつか森は途切れて、今まで見たことのない風景が広がっているんだ。
道は様子が判っていた分、行きよりもずいぶん早く感じた。森を出ると見慣れたリョウの家の道に辿りつく。出た場所は森へ入ったときとほとんどずれていなくて、リョウが今まで狩人として養ってきた方向感覚の正しさをうかがわせた。
「おまえ、怪我しなかったか?」
森を出てすぐに、リョウがあたしに訊いてきた。言葉に合わせて膝をついて、あたしの両足を探るように見つめたの。リョウは狩人だから膝下には怪我をしないように布を巻いている。でもあたしはスカートのままだったから、下生えで少し引っかき傷を作ってしまったんだ。
「たいした傷じゃないわ。帰って洗えば大丈夫」
恥ずかしさもあって、あたしはできるだけ傷を隠そうとしたのだけど、リョウには通じなかったみたい。立ち上がったときには真剣な表情であたしを見つめた。
「このまま帰せないな。日が落ちるまでにはまだある。1度俺の家に戻るぞ」
そう有無を言わせない口調で言ったあと、リョウは背を向けて歩き始めてしまったから、あたしは従うしかなかった。
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