リョウの背中を見ながら、あたしも思っていたの。これがあたしなのかもしれない、って。いつもリョウのことを追いかけて、たとえどんなところへ連れて行かれたとしても、ここにリョウがいるだけであたしは幸せなあたしになれる。
 いずれリョウは自分の世界に帰ってしまう。そのときあたしはどうなるんだろう。追いかける人が誰もいなくなったあたしは――
「ユーナ!」
 リョウに鋭く呼ばれて、あたしははっとして顔を上げた。見るとリョウはいつの間にか少し先にいたの。あたしが追いつくと、リョウは足元に注意しながらあたしを引き寄せてくれる。その先には高さにして300コント、対岸までの奥行きが800コントくらいある断層がぱっくりと口を開けていたんだ。
 覗き込むのがちょっと怖かった。リョウが支えててくれなかったら吸い込まれてしまいそう。落ちないように気をつけながら更に目を凝らしてみる。向こう側の層の隙間から水が染み出していて、断層の底には小さな流れができていたの。
「ここ…ナクル川の支流…?」
 村の地形を思い出してそうつぶやいた。リョウにはあたしの言葉が判らなかったのだろう。少し首をかしげていたけれど、やがて言った。
「どうかな。この水の量だと川に注ぎ込む前に地下水になってるかもしれない。…下へ降りる道はなさそうだな」
 断層はこのすぐ近く、まだ見えるあたりから始まってるんだけど、その先がどのくらいまで続いているのかはここからでは判らない。もしかしたら先へ行けば下に降りる道もあるのかもしれないけど、そろそろ暗くなる頃でもあったし、今道を探していたら帰り道が判らなくなってしまうだろう。
「今日はこのまま帰った方がいいわ。興味があるならまたくればいいもの」
 あたしが言うと、リョウはあたしを振り返ってふと、微笑を漏らした。
「そうだな。またいつでもこられる」
 リョウの答えで判った。あたしがリョウに帰宅を促したのは、村への未練を残すことでほんのわずかでもリョウを引き止めたかったからなんだ、って。
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