「…唇にも傷があるのか?」
「うん、あるよ。…リョウ、あたしの唇にもある」
 2度目のキスはリョウの方から。リョウのキスはあたしに、自分が愛されてるって錯覚させてくれる。もしも影の国で死ぬなら、あたしは真実を見る必要なんかないよね。リョウに愛されたままでいいんだよね。
 ――そうか、だからあたしは影の国へ行こうと思ったのかもしれない。リョウに愛されたユーナのままでいられるから。
 唇が離れて目を開けると、リョウがふっと視線をそらす。そのまま片手で抱き寄せられて、気づいたときあたしはリョウの左胸に頬を押し当てるようにしてもたれかかっていたの。
「ランドのこと、悪かったな。…失敗した」
 たぶんランドを怒らせてしまったことを言ってるんだろう。あたしが答えずにいると、リョウは先を続けた。
「怪我をさせるつもりはなかったんだ。ただ、ランドを言葉だけで説得するのは俺には無理だった。俺におまえを守れる力があるってことを見せてやる必要があったんだ。たぶん今ので納得してもらえたと思う」
 あの時、ランドはリョウを怒らせるようなことを言った。でもリョウは怒りに任せてランドと喧嘩した訳じゃないんだ。もしもリョウがランドと殴り合わなかったら、ランドはこんなに早く納得してくれなかったかもしれない。リョウの話でリョウが取った行動の意味は判ったんだけど、でもあたしは何かが違う気がしていたの。はっきり言葉にはできなかった。ただ、やっぱり大切な人を殴るのは良くないことだって。どんなに時間がかかっても、話し合いで解決した方が良かったんじゃないか、って。
「…俺が悪かった。2度としないと約束する」
 リョウはあたしの気持ちを判ってくれたのかもしれない。見上げると、リョウは痛みを堪えるような表情で正面を見据えていたの。
「影の国へは黙って行く。明日も今日と同じくらい早起きしてくれ。誰も起きていない時間に4人だけで出発する」
 あたしはリョウの言葉に驚いて見つめたけど、もう何も言えなかった。とつぜんあたしたちがいなくなったらきっとみんなを心配させちゃうだろう。でもあたしは、ランドのことでこんなにも傷ついて見えるリョウに、それ以上の負担をかけることができなかったんだ。
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