「ユーナ、そのくらいでいい。ありがとう。あとは自分でやる」
 そう言って、ランドはあたしの手から手ぬぐいを取ると、頬に当てて立ち上がっていた。そのままリョウの家の方へ歩いていく。
「1人で大丈夫なの? あたし、手伝うよ」
「そんなにオレの裸が見たいのか? そこまで言うなら見せてやってもいいぜ、オレの肉体美」
 はっと気づいて顔を赤くしたあたしに意地の悪い笑みを見せて、ランドはリョウの家の扉を入っていった。振り返るとリョウが背中を向けて座っていたの。あたし、このあいだリョウの上半身を見たときのことを思い出して、心臓がドキドキしてきちゃったよ。ちょっと頭を振ってそんな妄想を追い出したあと、なんとか平静を装ってリョウの隣に膝をついていた。
「…リョウも傷だらけじゃない。ほら、ちゃんとこっち向いて」
 リョウの傷はまだ手付かずで、あたしは手ぬぐいを絞ったあと、額の血をぬぐい始めた。ちょっと痛そうに目を細めたリョウは遠くを見たままだ。もしかしたら、あたしが意地悪なことを言ったから怒ってるのかもしれない。でも起き上がれなくなるまでランドを殴るなんて、やっぱりリョウの方が悪いよ。
「このくらいでいいかな。…薬をつけなくちゃ。あたしの宿舎へ行けば少しはあるけど」
「…こんなの舐めときゃ治る」
「どうやって舐めるの?」
 傷は額にあるんだもん。なにも考えず正直に疑問を口に出すと、リョウはやっとあたしと目を合わせてくれたの。そしてすごくやさしい表情で微笑んでくれたんだ。まるであたしの心の中も暖めてくれるみたいな笑顔。きっと今あたしも同じ笑顔でリョウを見つめている。
「以前タキが作ってくれた薬がいくらか残ってる。ランドはぜんぶは使い切らないだろう。心配しなくても大丈夫だ」
「…じゃあ、それまではあたしが舐めてあげる」
 膝立ちのまま少し戸惑うリョウの頭を抱えて、あたしは額の傷にキスをした。それから、鼻の頭にキスして、唇。リョウもあたしを引き寄せてキスに答えてくれる。胸の奥が熱くなる。そして、小さな痛みも。
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