少しずつ身体を動かして、ようやく立ち上がって2人に近づいていく。倒れたランドを見下ろしていたリョウも少しランドに近づいて、その場に膝をついていた。
「あんたは、人間と戦うことに慣れてねえ。カザムと人間は動きが違う」
2人とも傷だらけだった。唇から流れた血をぬぐうこともしないで、ランドはお腹を押さえて身体を起こそうとする。
「…リョウ、おまえは慣れてるっていうのか…?」
「あんたよりは慣れてる。人間にも、獣鬼やセンシャにも」
リョウも額から血を流している。気配を感じて振り返ったリョウにあたしは言った。
「リョウ、お願い。ランドを手当てして。…どうしてこんなになるまで――」
「ランド、立てるか?」
「…勘弁しろ。もう少し休ませてくれ」
「判ったわ。水を持ってくる」
あたしはリョウの家に入ってコップを2つ用意して、リョウの家の裏手に向かった。ここに近くの川から水が引いてきてあるの。コップをいっぱいにして2人のところへ持って行ったあと、今度は桶を1つ水で満たして、手ぬぐいと一緒に運んでいったんだ。その頃にはランドも身体を起こすことができたみたいで、2人とも地面に直接座って何かを話していたようだった。
「ランド、大丈夫?」
あたしは桶を2人の間において、手ぬぐいを絞ったあとランドの傷を拭いてあげた。唇が切れてて、あと頬にうっ血したようなあとがある。リョウ、いったいどんな力で殴ったんだろう。さっきからお腹を押さえているし、たぶん身体のあちこちに痣ができてるだろう。
「リョウは自分でやるのよ。…ランド、痛かったでしょう? こんなにひどく殴るなんて、死んじゃったらどうするのよ」
「…死ぬような殴り方してねえよ」
リョウがうしろでボソッと言った声が聞こえたけど、あたしは無視してしばらくの間ランドの頬をぬぐい続けていた。
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