少しの沈黙のあと、不意にタキが笑い出したの。そうしたらあたしも緊張が解けたみたい。顔の筋肉が緩んで、思わず笑顔になっていた。
「…なんだよ。ここ、笑う場面かよ」
あたし、うれしかった。だって、ランドがあたしのことを娘だって言ってくれたんだもん。ランドがそんな風に思っててくれてるなんて、あたし知らなかった。両親を失ったあたしの親代わりだと思っててくれたなんて。
「いや、すまない。あなたの言う通りだよ。確かにここは笑う場面じゃない」
そうランドに謝りながらも、タキは必死に笑いをこらえていた。その様子を見ていたらあたしも笑いがこみ上げてきちゃったの。でもほんとに笑う場面じゃなかったから、あたしはできるだけ冷静になるように自分に言い聞かせていた。
「ランド、ありがとう。あたしのことを娘だって言ってくれて」
あたしの言葉に、ランドも少しだけ冷静さを取り戻したみたい。もしかしたら自分が口走ったことを覚えてないのかな。照れたように言い訳めいたことを口にしたあと言った。
「…ああ、本題はそっちじゃねえ。ユーナ、おまえ、ほんとにこいつと一緒に影の国へ行く気か? そんな危険なことやめろ。おまえが行ったところでたいして役に立ちゃしねえ。死にに行くようなもんだろ。…タキ、おまえも黙ってねえで説得しろ。こういうときに止めに入るのがおまえの役目じゃねえか」
それでタキもさっきまでのあたしとの会話を思い出したみたい。やっと笑い顔を引っ込めて、真面目な表情でランドに答えた。
「残念だけど、オレには祈りの巫女を止められない。止めたいならランド、あなたが自分で止めてくれ」
ランドは信じられないような顔でタキを見て絶句する。そのあとリョウを見て、あたしを見て、どうやらここには自分の味方が1人もいないってことを悟ったみたい。再びタキに掴みかからんばかりに顔を寄せて言ったんだ。
「どうしてだ! おまえら全員おかしいぞ。なんでユーナが死ぬって時にそんなに冷静でいられんだよ! ユーナが心配じゃねえのかよ!」
「ランド、あなたの言うことは間違ってない。正しいのはあなたの方だ。だからオレの方がお願いしたいよ。ランド、祈りの巫女を止めて欲しい。オレには祈りの巫女を止められるだけの言葉がないんだ」
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