「担当のオレがついていけなくて本当に申し訳ないと思ってる」
もしかしたらタキは、あたしが2度と村へ戻ってくることがないって、悟っていたのかもしれない。しばらく2人の間に沈黙があって、お互いに口を開くきっかけを探していたあたしたちは、ほとんど同時に外の騒がしさに気がついたの。あたしがうしろを振り返った次の瞬間、外側からドアが開かれて、本来ならここにいるはずのない人が駆け込んできたんだ。
「ユーナ! おまえ、影の国へ行くってのはほんとか!」
いきなり両肩を掴まれてあたしは声も出すことができなかった。目の前には怒ったランドの顔。そして、そのうしろからリョウが駆けてきたのがチラッと視野に入る。
「どうなんだよ!」
ようやくあたしがうなずくと、舌打ちしてあたしから手を離したランドは改めてベッドのタキに気づいたみたい。今度はベッドに手をついて怒鳴ったの。
「おいタキ! おまえ、ユーナのこと止めたんだろうな! 今すぐ馬鹿なことはやめさせろ! あんな得体の知れないところへ黙って行かせる気かおまえ!」
あたしはうしろを振り返って、リョウと目を合わせた。リョウの困ったような表情を見て、あたしにもやっと状況が飲み込めた。リョウがランドに影の国へ行くことを話したんだ。どういういきさつでそうなったのか判らない。だけど、それを聞いたランドはあたしを説得するためにここへ乗り込んできたんだ。
「ランド、少し落ち着いてくれないか? ここにはオレのほかにも怪我人が――」
「これが落ち着いていられるか! オレはなあ、ユーナのことはこーんなチビの頃から知ってるんだよ。こいつの両親が死んだ今、オレは言ってみればこいつの親代わりなんだ。それをなんだ! 生きて帰れるかどうか判らないようなところへ一緒に連れて行くっていうんだぞ、この大馬鹿野郎が! 行きたきゃてめえ1人だけで行けよ! オレのかわいい娘を巻き込むんじゃねえ!」
そう、思い切りよく叫んであたしたちをにらみつけたランドに、3人ともあっけにとられて何も答えることができなかった。
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