命の巫女はあたしの普段着だったけど、あたしは儀式用の衣装を着ていたから、食後は部屋に戻って朝の服に着替えた。再び食卓に戻ると、命の巫女と入れ替わりにカーヤが台所にいて食器の片づけをしていたの。オミの部屋の会話はきっとあたしには判らないだろう。少しの間1人になりたくて、あたしはカーヤに断って宿舎を出た。
夏の日差しのまぶしさに目を細めて、周囲を見回しながら神殿の方へと歩いていく。神殿の天井と南側の壁はまだ崩れたままだ。崖側にある聖櫃の巫女の宿舎も半分は土砂に埋まっている。破壊のあとが痛々しくて、自然にあたしたちの心をも沈ませてしまうみたい。どんなに日常を取り繕っても、影が残した傷跡を完全に消すことなんかできはしなかった。
あたしを殺すために現われたセンシャたち。あたしが影の国へ行ったら、センシャはチャンスとばかりにあたしを殺そうと殺到してくるのだろう。それが必要なことなんだって判ってたけど、やっぱりあたしは怖いよ。だって、センシャはたった2回しかシュホウを放っていないのに、80人以上の人たちの命を奪うことができたんだもん。影の国には村へ現われたよりもずっと多くのセンシャがいるのだろう。そのすべてに狙われたら、あたしが生きて村へ戻れる可能性なんかないのと同じなんだ。
今日が村の見納めになる。今日があたしが村にいられる最後のときになる。だったら、できるだけたくさん村を見ておこう。そして、みんなの顔を見ておくんだ。お別れを言うことはまだできないけど、
通る人たちと笑顔で挨拶を交わしながら、あたしは神官の宿舎へ向かっていった。扉を入ってタキの病室へと足を向ける。タキも昼食を終えたばかりで、あたしが顔を見せると笑顔で椅子を勧めてくれた。
「元気そうね。傷はまだ痛むの?」
「おとなしく寝てるからだいぶふさがってきてるよ。痛みの方はね、薬をもらってるからほとんど感じない。でもそろそろ薬を飲むのはやめようかと思って」
「どうして? 無理をするのは良くないわ」
「山で取れる薬草がだんだん少なくなってきてるはずなんだ。みんなオレには何も言わないけど、出かけてから帰ってくるまでの時間が長くなってるのはここにいても判るよ。山の奥の方にまで入り込んでるんだとしたら獣に襲われる心配もあるしね」
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