言葉をきいて、命の巫女とシュウとが顔を見合わせる。その表情は少し不安そうで、あたしには自分の言葉の何が2人を不安にしてしまったのかが判らなかった。
「どうしたの?」
「…いや、たいしたことじゃない。祈りの巫女には関係ないことだし、それに今思い悩んでも仕方がない。…そうそう、だったらさ、もしも聖櫃の巫女が死んだらどうするの? 新しい聖櫃の巫女の儀式をしないといけないよね」
シュウが笑顔を取り繕って話題を変えてしまったから、あたしもそれ以上追求することはしなかった。
「聖櫃の巫女の儀式は守りの長老が執り行うことになってるわ。襲名の儀式そのものに聖櫃の巫女の力は必要ないの。だから神様の言葉を正確に発音できさえすれば、極端な話あたしでも儀式を執り行うことはできるのよ」
「ふうん、いろいろ勉強になるな。…祈りの巫女、ちょっとオミと話してきていいかな」
そう言うと、食事を終えたシュウがすっと立ち上がったの。あたしはそんなシュウの急激な変化についていけなかった。
「え、ええ。あたしはかまわないけど。…オミがどうかしたの?」
「この村のガラス職人はオミだけなんだろ? じつはさ、さっきビオと話してて判ったんだけど、この村にはトツレンズがないんだ。星見やぐらにあれだけ正確なテンキュウズが作れるのに、テンタイボウエンキョウがないのはもったいないよ。オレたちは明日影の世界へ行けば戻ってこられるかどうか判らないからね。今のうちにオミに仕事を依頼していこうと思ってさ」
あたしが意味不明って感じで見上げていたからだろう。シュウは苦笑いを浮かべて、命の巫女をチラッと見たあと手を振って奥へ歩いていった。シュウが去ってしまったあと、命の巫女が補足してくれる。
「ボウエンキョウってね、遠くにあるものがすごく近くに見える道具のこと。ガラスで作ったレンズを2枚組み合わせて作るの。ほかにもレンズっていろいろな使い道があるのよ。メガネが作れたら年をとってからでも小さな文字が読めるし。ケンビキョウなんか作れたら、たとえば人間の病気を引き起こす小さな生き物の姿まで見ることができるわ。きっと今までの世界観がガラッと変わるわよ」
そのあと詳しい説明をしてくれたけど、あたしには自分の体の中に住んでる小さな生き物の話なんて、少しも信じることができなかった。
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