儀式が終わると本当なら村人たちに祝い料理が振舞われて、村をあげての盛大なパーティが始まるのだけど、今回それらはすべてなくなっていた。でも昼食の炊き出しにはそれを匂わせる材料をいくつか使っていて、守護の巫女の心遣いを感じさせる。影の襲撃からまだ2日も経っていないんだもん。あれだけ多くの人が死んだ直後に、すぐそれと判るような祝い料理を出すことなんかできないんだ。
「――途中、聖櫃の巫女の口上で不思議な言葉があっただろう? あれはどういう意味だったんだ?」
シュウは昼食をあたしの宿舎でとっていて、その間中ノエの儀式についてずっとあたしに質問していたの。あたしも食事中だから逃げることなんかできなくて、苦笑いを浮かべながら答えを返していた。
「神様の言葉と言われているわ。正確な意味はあたしにも判らないけど、新しい運命の巫女が選ばれたことを神様に報告しているの。その言葉を神様が聞き届けて、新しい運命の巫女を認めなければ、神殿で所作を行っても運命は見えない。神様にノエを運命の巫女と認めてもらうために必要なの」
「守護の巫女が決めれば誰でも未来を見られる訳じゃないのか。だからたとえ簡素なものでも儀式が必要なんだな」
「ええ、そう。神様が認める運命の巫女は常に1人だけなの。だからあの言葉で先代の任を解いて、同時にノエが襲名する。この村の巫女はそうやって世代をつないでいくのよ」
そのとき、今までほとんど黙ったままだった命の巫女が口を挟んだ。
「あたしは? 儀式を受けてないけど力を使えるわ。どうして?」
「おまえの場合はあれだよ。常識外、ってこと」
「なによそれ! シュウ、あたしにケンカ売ってる?」
「命の巫女は生まれたときから神様に認められているのよ。だから改めて認めてもらう必要がないの。それは祈りの巫女も同じだから、シュウの言葉を借りればあたしも常識外ってことね。だからその任を解かれることもないわ」
あわてて険悪になりかけた2人の間に割って入る。今までの経験から2人の言い合いは仲がいい証拠なんだってことは判ってるの。でも、あたしの周りでそんな愛情表現をする人たちってぜんぜんいなかったから、いつまで経ってもあたしは慣れることができないでいた。
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