セリに呼ばれて宿舎の外に出たときには、既に神官たちの多くが神殿前広場に集まっていた。避難所にいるのは多くは怪我をした人たちだったけど、中には家族を失った子供たちもいて、窓から外の様子をうかがっている。あたしと命の巫女はセリの指示に従って、両側に道を作る神官たちに混じっていたの。その中にはシュウもいて、わざわざ命の巫女の隣まで移動してきていた。
やがて、聖櫃の巫女に先導されたノエが、周りに多くの巫女を従えて坂を上がってくる。ややうつむき加減のノエがさっきよりもずっと緊張してるんだって、見ているあたしにもよく判ったんだ。ノエはあたしたちの前を通ってすぐに共同宿舎に入ってしまう。ノエが運命の巫女の衣装に着替えている間、あたしと命の巫女は神殿の方へ移動することになってるんだ。
正式な儀式だったから、あたしは祈りの巫女の衣装に着替えているのだけど、とうぜん命の巫女は儀式用の衣装なんかもっていなかった。命の巫女の色は赤で、だからあたしの服の中からできるだけ濃いピンク色の服を選んで、赤い飾りを胸と髪につけることで代用していたの。
「まるでソツギョウシキか何かみたいだな。妙に間延びした感じがする。巫女の儀式っていつもこんな感じなの?」
シュウが訊いてくる。本当なら儀式の最中におしゃべりするなんてほめられたことじゃなかったけど、あたしも小声で答えていた。
「いつもは村人が集まっているから少し違うわ。今あたしたちがいるところは村の人たちがびっしり埋めているの」
「だったら少しは緊張感があるかな。音楽でも流せばもっと盛り上がるだろうけど」
確かにシュウの言うことももっともな気がした。神官や巫女たちだけではあまりにひっそりとしすぎていて、まるで儀式の練習をしているみたい。今はこんな時期だから盛大な儀式はできないけど、これほどまでに簡素な儀式で運命の巫女にならなければいけないノエが少し気の毒に思えた。
祭壇に向かって右側、あたしと命の巫女は並んでノエの儀式を見守る。儀式までの時間が少なかった割にはノエの所作は堂々としていて、不安なところはまったくなかった。最後に若葉を編み込んだ冠を授かる頃には笑顔も見えて、あたしはどうして守護の巫女がノエを推したのかが少しだけ判る気がしたの。彼女は困難や逆境に驚くほど強いんだ。きっと運命の巫女の重責も彼女なら乗り越えてくれるだろう。
ノエの若さに不安を抱いていた人がぜんぜんいないとは思わない。でも、今のノエを見てみんな納得しただろう。儀式が終わってからのあたしたちの賛辞は心からのものだった。すべての人が笑顔で彼女に声をかけた。「おめでとう、運命の巫女」と。
次へ
扉へ
トップへ