祈りの巫女になったばかりのあたしは、今のノエよりもずっと幼くて、頼りない巫女に見えたことだろう。それでも周りのみんなは温かい目で迎えてくれた。今度はあたしが先輩になって、ノエの成長を見守っていくんだ。
「ノエはきっと、あたしよりもずっと優秀な巫女になるわね。ね、そう思わない? 聖櫃の巫女」
「さあ、それは私の口からはなんとも言えないわ。ぜひそうなって欲しいとは思うけど」
「教育係はまた聖櫃の巫女がつとめることになるの?」
「最終的にはそうだけど、今は非常時だから、当分は私と神託の巫女が交代であたることになると思うわ。今は命の巫女が未来を見てくれているけど、いつまでも頼る訳にはいかないもの」
 あたしは明日影の世界へ行くことを思い出して、そう口にしそうにもなっていたのだけど、まだ誰にも話していないことだったからあわてて口をつぐんだ。リョウとシュウは書庫で、あたしたちがすんなり影の世界へ旅立つための作戦を話し合っていた。リョウは昨日もずっと根回しに奔走していたの。今あたしが余計なことを言ってリョウの努力を台無しにする訳にはいかない。
 ノエと聖櫃の巫女が帰っていったあと、命の巫女はちょっと不機嫌そうな顔で考え込んでいた。あたしの視線に気づいて顔を上げる。
「彼女、気が強そうな子ね。話をしたのは初めてだけど」
「どうかしたの?」
「前に1度だけ、シュウと一緒にいるところを見たことがあるの。……巫女はよく書庫に出入りしているものなの?」
「そうね。ノエは若いから書庫へ行く機会も多いと思うわ。今はまだいろいろ勉強する時期だし。シュウも書庫は好きなようだからノエと顔見知りでもおかしくないわね。それが何か?」
「……ううん、なんでもない」
 命の巫女は表情を変えないまま、そのあと支度をして神殿へ行ってしまったの。運命を見に行くと言って。あたしは不思議に思ったけど、少しだけ考えて判った。命の巫女は、シュウが帰ると聞いたノエが不自然なくらいがっかりしたことが気になって仕方がないんだ。
 ノエはシュウに恋をしたのかもしれない。本当のことは判らないけど、あたしは再びノエと自分の未来とを重ね合わせていた。
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