「昨日の夜、オレとユーナは祈りの巫女にその話をしてね。単に報告だけのつもりだったんだけど、そのとき祈りの巫女が言ったんだ。自分も影の世界へ一緒に行きたい、って。最初は反対したんだけど、彼女の話を聞いているうちに、その方が村のためにもなるんじゃないかって考え直した。…先にこの話をするべきだったのかもしれない。リョウ、あなたの大切な婚約者を、命の危険があるかもしれない影の世界へ一緒に連れて行くことに、あんたは同意してくれるか?」
話の途中から、リョウは驚きに目を見開いていた。そして、シュウの話が終わったあと、再び勢いよくあたしを振り返ったの。それから少しの間、リョウはあたしを見つめていた。まるであたしの心の中を見透かすみたいに。
やがて、視線をはずして深いため息をついたリョウは、シュウに向き合ったときにはもう心の中にある感情を表に見せてはいなかった。
「出発はいつにするつもりだ」
「守護の巫女には今日話をするつもりだから、早くても明日になる。説得に手間取ったとしてもできれば明日の朝には出発したいね。オレたちも早いところ片づけて元の世界に帰りたいし」
「…こいつが1度言い出したことを諦めさせるのは至難の技だ。同意するしかねえだろ。ただし、俺も一緒につれていくことが条件だ」
「いいよ。こうなる覚悟はできてたから。まさかあんたに先を越されるとは思ってなかったけどね――」
このあと、リョウとシュウとは表面的には穏やかに、今後のことを少し話し合ってから別れた。命の巫女たちが出て行って、書庫で2人だけになったとき、リョウはまたため息をついて横目であたしを見たんだ。
「おまえ、心臓に悪い」
なにを言われるのかと思って身構えていたあたしは、リョウの言葉にきょとんとした表情をしたみたい。リョウが笑顔を漏らしたから、あたしはすごく暖かい気持ちになっていたの。
「怒らないの? リョウに相談しないで決めちゃったこと」
「それについては俺も同じだからな。おまえだけ責めるつもりはねえよ。…影の世界はどんな危険があるか判らない。おまえ、自分の身は自分で守れよ。その覚悟がないなら今からでも遅くない、影の世界へ行くのはやめろ」
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