それ以上どうすることもできない。あとはリョウの機転に任せるしかなかったんだ。
「いったいなんの話だ?」
「あたしたちね、ちょっと早く起きすぎちゃったの。だから命の巫女たちとお散歩してたところなのよ」
「やあ、おはようリョウ」
「…ああ、おはよう」
追いついてきたシュウが笑顔で挨拶するのに、戸惑った様子でリョウが挨拶を返す。それはとても平和な朝の風景を切り取ったようだったのだけど、あたしは気が気じゃなかったの。だって、リョウの時間がずれていることがシュウに判ってしまったら、リョウがトツカだって確信がますます深まってしまうんだもん。
「リョウ、こんなに朝早くからどうしたんだ? まだ神殿の人間は誰も起きてないぜ」
「…いや、そんなことより、お前ら今暇なのか? 散歩してたくらいだから忙しい訳じゃないんだろ?」
そのリョウの答えに、張り詰めていた分あたしは拍子抜けしちゃったんだけど、シュウの方も驚いたみたい。だってリョウはずいぶん切羽詰まった感じで、今にもシュウに掴みかかりそうな表情をしていたから。
「あ…ああ、別に忙しくはないけど」
「ちょっと話が…いや、頼みたいことがある。どこか落ち着いて話ができるところへ付き合ってくれ」
シュウはリョウに頼みごとをされたことで本当に驚いてしまったみたいで、話をする場所に神殿の書庫を提案したあとはほとんど口をきかなかった。シュウは最近ここで過ごすことが多いらしくて、中の様子に詳しいシュウが先に立って歩いていく。その部屋に入る前に、あたしは席を外そうかってリョウに訊いたの。でもリョウはあたしにも聞いてほしいって、4人がけの隣の席にあたしを座らせたんだ。
リョウの正面にはシュウがいる。なんとなく、あたしはシュウがこの席に座ったことを後悔してる気がして、ちょっとおかしくなった。
そんなシュウと命の巫女を等分に見つめたあと、すごくまじめな顔でリョウは切り出したの。
「頼む。お前たち2人の力で、次元の扉を開いてくれ。入口は西の森の沼。出口は…影がやってくる世界だ」
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