「祈りの巫女は気にならないの? あたしにはそっちのほうが不思議」
「早い分にはたいして気にならないわね。おなかがすいたのなら今作るわ。それともお散歩でもする? まだ涼しいから気持ちがいいわよ」
「そうね、朝食には早いしお散歩にしましょう。…んもう、シュウがいれば判るのにな。あたしもケータイのデンゲン切っておけばよかったよ。だってデンパが届かないところだとデンチの減りが早いなんて知らなかったんだもん…」
その独り言には判らない言葉が多かったから、あたしは返事をしないで先に立って宿舎の扉を開けた。ほんと、早朝のお散歩って気持ちがいいの。あたしはめったに早起きしないからあまりしたことがないんだけど、まだ山の影になってる神殿はひんやりしていて、少しくらい眠くても目が覚めるみたい。うしろからついてきた命の巫女も、大きく伸びをして朝の空気を吸い込んだ。
「う…ん、ここは空気がきれいね」
「朝はやっぱりすがすがしいわね」
「最初に星を見上げた夜にね、すごく驚いたの。だってあたしが住んでたところと星の数がぜんぜん違うんだもん」
「…? それってさっきの話の続き?」
「ううん、違うの。確かに見慣れたセイザは1つもなかったけど、そういう意味じゃなくてね。あたしが住んでるところでは、ここよりも空気が汚れていて、星があまり見えないの。だから感動したんだ。…今も山の空気のすがすがしさに感動中」
そう言ってまた深呼吸する命の巫女の横顔にちょっとだけ寂しさを感じて、あたしには命の巫女の気持ちが判っちゃったんだ。…命の巫女は帰りたがってる。もしかしたら自分でも気づいてないのかもしれないけど、目覚めてからずっと自分の村のことを話しているのって、帰りたい気持ちが強くなってるからなんだ。
ほかの人たちの眠りを邪魔しちゃいけないから、あたしたちは宿舎や避難所の近くは避けて、神殿の前まで来ていたの。そのとき神殿の裏からシュウが歩いてくるのが見えたんだ。もちろんあたしは驚いたけど、シュウの方も驚いたみたい。だってこんな早朝にこんなところで偶然会うなんて普通は思わないもの。
命の巫女がシュウに向かって駆け出していく。その様子がほほえましく思えて、あたしは自然に笑顔になっていた。
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