リョウに協調性が欠けていると言ったシュウの言葉も本当のような気がする。だって子供のころのリョウはあたしに意地悪ばかりしていて、人の気持ちを考えることができなかったんだもん。
あのままのリョウが大人になっていたら、シュウが語ったトツカのような、協調性に欠けた人間になっていたのかもしれない。でも今のリョウは違う。死ぬ前のリョウほど人当たりがいい訳じゃないけど、シュウが言うほど協調性がない人間には見えないよ。タキや狩人たちともちゃんと協力してくれているし、会議では自分の意見をきちんと話してみんなを納得させようとしているんだから。
命の巫女が言うようにシュウの目が腐ってたのかもしれないけど、もしかしたらこの短い期間でリョウは変わったのかもしれない。食事をしながらそんなことを考えていたとき、不意に扉がノックされて誰かがきたことが判ったんだ。
返事をして扉を開けると、そこにはセリが立っていてあたしを驚かせたの。
「セリ、どうしたの?」
「食事中だったみたいだね。邪魔して悪かったけど、早い方がいいと思ったから。…これ、必要だろ?」
そう言ってセリが手渡してくれたのは数枚の紙で、広げてみて驚いたの。そこには今回の災厄で怪我をした人の名前がびっしり書き込まれていたから。
「…どうして?」
「食事の前にタキを見舞いに行ったのが運のつき、っていうか。…祈りの巫女、あんまりオレに恥をかかせないでくれる? タキの奴に無能扱いされるのはかなり屈辱的なんだけど」
とっさに意味が判らなくて呆然と見上げていると、セリは続けた。
「ともかく、必要なことは遠慮しないで話して。オレたち神官は巫女のためだけに存在するんだから。平手打ちの1つや2つでめげるようなヤワな心根は持ってないよ。それより後輩に冷ややかに見られる方が余計に心にこたえる」
そんなセリのしゃべり口にはちょっと驚かされたけど、あたしは謝って、そのあとお礼を言って、宿舎に駆けていく背中を見送った。視線に心からの感謝と謝罪と、神官たちへの尊敬の意味を込めて。
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