「だけどそれは君が知ってるリョウ――」
「シュウ!」
 とっさに命の巫女がさえぎって、シュウは最後まで口に出すことができなかった。シュウも自分の失言を悟ったのか、一瞬しまったというような表情をしたあと、じっとあたしの反応を見詰めている。シュウが何を言いたかったのか、あたしには判ったの。やっぱりシュウはリョウがトツカだって確信してるんだ。
 タキのときと同じ失敗は繰り返せない。その沈黙が重苦しくて怖かったけど、あたしは勇気を振り絞って、嘘を演技した。
「協調性がないんじゃないわ。リョウがシュウと仲良くできないのは、シュウがあたしと接する時間が長いからなの。ほら、今朝もあたしとシュウが話してた時すごく怒ってたでしょう? リョウね、あたしをシュウに取られるんじゃないかって、心配しているの」
 あたしを見つめるシュウと命の巫女の目に哀れみが混じる。あたし、すごくみじめだ。でもそのみじめさを2人に見せちゃいけない。
「すごくやさしい人なのよ。さっきだってあたしが落ち込んでたら、あたし自身にはその理由が判らないのに、リョウはちゃんと判ってあたしを元気付けるためにタキに相談してくれたの。…やだ、あたし、シュウが変なこと言うからノロケちゃったじゃない。でもシュウが思ってるほど身勝手な人じゃないわ。もしもリョウが一緒に影の国へ行ったとしても、自分ひとりで勝手に動いたりしないから安心して」
 あたしの演技は、ある意味成功を収めたようだった。シュウと命の巫女は一度顔を見合わせたあと、あたしに微笑んでくれたから。たぶんリョウがトツカだって確信は覆せなかったと思うけど、少なくともあたしがリョウの秘密を知っている事実は隠し通せたはずだった。
「…その、悪かったね、祈りの巫女。オレ少し誤解してたみたいだ。例の、リョウにそっくりだって話したトツカがね、ほんとに協調性のない奴だったんだ。だから同じ顔をしたリョウもつい同一視しちまって」
「それもシュウの偏見だよ。あたし、トツカサンのことそんなに悪い人に見えなかったもん。シュウって目が腐ってるんじゃないの?」
「ああ判った! だからそんなに責めないでくれよ。オレの目が腐ってました。この通り、謝ります!」
 そう言ってシュウがゆかに下りて土下座したから、あたしと命の巫女は互いに顔を見合わせて、どちらからともなく再び笑い出していた。でもあたしは、2人の話の中にリョウの一面を垣間見たような気がして、少しだけ複雑な気分を味わっていたの。
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