ひとしきり笑いあったあと、忘れていた食事を再開しながら、シュウがちょっと深刻そうな表情に戻って言う。
「祈りの巫女が一緒に行くとなると、ひとつ問題があるな」
「守護の巫女のこと? でもさっきの話を冷静に話せば判ってもらえるわ。あたしが村に残っても得るものはないもの」
「そっちはそれほど心配してない。いざとなれば強硬手段に出てもいいし。…オレはむしろリョウのことを気にしてるんだ」
 シュウの口からリョウのことが出て、あたしはドキッとしていた。リョウは命の巫女の騎士だった。それは本人にも判ってることだから、命の巫女が影の国へ行くなら同行したいと思うだろう。今はあたしの騎士として振舞っているけど状況は同じだ。もしもあたしが影の国へ行かなかったら、2人の巫女の間でかえってリョウを悩ませてしまっていたかもしれない。
 あたしがドキッとしたのは、シュウがリョウをどちらの立場として見ているのか、その答えを知るのを恐れたからなのだろう。
「リョウは関係ないわ。引き止めるかもしれないけどあたしが説得する。順を追ってきちんと話せば判ってくれる人よ」
「いや、リョウは間違いなく一緒に来ると言い出すよ。君をオレたちだけに任せるなんてあいつができるはずないもんな」
 そのシュウの言葉は、リョウをあたしの婚約者として扱っていた。でもそれは、あたしが目の前にいるからなのかもしれない。あたしの中に疑いの心が広がっていく。シュウはすでにリョウがトツカである確証を掴んでいて、いつかあたしの嘘を暴き出してしまうのかもしれない、って。
「婚約者を目の前にして言うのもなんだけど、オレ、リョウってかなり苦手なタイプなんだ。あっちもオレのことをかなり嫌ってるみたいだしね。できれば近づきたくない。きっとリョウもオレには近づきたくないと思ってるだろうし」
 それはあたしから見ても本当だと思うから、あたしはあえてコメントしなかった。
「それに協調性が欠けてるんだよな。あの戦闘能力はすごいと思うけど、今回のような場面で独りで勝手に動いてもらっても困る」
「そんなことないわよ。シュウは誤解してる。リョウは腕のいい狩人で、誰にでも親切で、村のみんなに頼りにされてるもの。村の決まりに背いたことだって1度もないわ。リョウくらい他人の気持ちを判る人っていないんだから」
 さすがに黙っていられなくなって、あたしはシュウに反論していた。
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