リョウはもしかしたら村へ残ると言うかもしれない。それでもあたしは影の国へ行かなければならないんだ。だって、あたしが影の国へ行くことが、誰にとっても1番正しいことなんだから。
「さすがだな、祈りの巫女は。…ユーナ、お前はどうなんだよ。1度は覚悟を決めたんだろ?」
命の巫女はたぶん、自分のことだけなら覚悟はできていたんだ。迷っているのはあたしが一緒に行くと言ったから。命の巫女が恐れるのは、誰かの命を背負ってしまうことだ。もしもあたしが死んだら彼女はあたしの命を一生背負ってしまう。
「命の巫女、これはあたしの戦いなのよ。だって、影に狙われてるのはあたしなんだもん。命の巫女はただ巻き込まれただけなの。だから、あたしの命にまで責任を負うことはないわ」
今まで目を伏せていた命の巫女は、不意に顔を上げてあたしを見つめた。
「ううん、違う。これはあたしの戦いなの。だからあたしが決着をつけないといけない。誰かを犠牲にしちゃいけないの」
「犠牲になったりしないわ。確かにあたしはあなたほど大きな力を持ってはいないけど、けっしてそれほどか弱い訳でもないのよ。祈りの巫女をあんまり軽く見ないで」
目を見開いて呆然とする命の巫女に微笑んで、あたしは続けた。
「想いは同じみたいね。――あたしはあたしの戦いをするために影の国へ行く。命の巫女は命の巫女の戦いをするために。目的は同じなのだから助け合いましょう。多少あなたに負担をかけてしまうかもしれないけど、それに見合うだけの協力はできると思うわ」
命の巫女は、もしかしたらあたしがこの村へ呼び出してしまったのかもしれない。あたしの祈りの力に巻き込まれた犠牲者なのかもしれない。でも、それが判っていても、彼女はこれが自分の戦いだと言ってくれた。シュウと同じ、命の巫女もあたしの光だ。
あたしは命の巫女が好き。もしも無事に村へ帰ることができたら、あたしは彼女のために多くの祈りを捧げたいと思うだろう。
「これは祈りの巫女の戦いでもあるのね。…判った。あたし、祈りの巫女に協力するわ。一緒に影の国へ行こう」
「あ、あと念のために言っておくけど、これはオレの戦いでもあるんだからな。頭の片隅でいいからオレのことも忘れないでくれよ」
シュウがちょっとおどけたように言って、あたしと命の巫女の笑いを誘った。
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