タキと話したことで少しだけ心は軽くなっていたけど、やっぱりすぐに頭を切り替えることはできなくて、病室を出てからもあたしは考えつづけていた。セトの気持ちは判った。でも、運命の巫女はいったいどんな気持ちだったんだろう、って。
 崖が崩れた時に運命の巫女とセトとは少し離れた場所にいたんだ。それはもしかしたら、運命の巫女が自分の運命にセトを巻き込みたくなかったからなのかもしれない。だって、ふつう神官は担当の巫女の傍を離れたりしないものなんだもん。災厄が来ているときにはタキだってあたしの傍を離れたりはしない。それなのに離れてたってことは、もしかしたらその時運命の巫女がセトになにかの仕事を言いつけたのかもしれない。
 影はあたしを狙ってくる。だからあたしの担当神官は、影の攻撃に巻き込まれて命を落とす危険が大きいんだ。タキは大怪我をしてしまった。もしかしたらセリだって、あたしの巻き添えで死んでしまうかもしれないよ。
 これは教訓だ。あたしは運命の巫女の死を無駄にしちゃいけない。次の災厄がいったいいつ来るのかまだ判らないけど、運命の巫女がそうしたようにあたしもセリを守らなくちゃいけないんだ。
 歩いて宿舎に戻るとカーヤが帰ってきていた。まだ外は明るかったのだけど、もう夕食の炊き出しができてたから、それを取りに行く準備をしていたんだ。
「命の巫女とシュウはいつものようにここで食べるわよね。リョウはどうするのかしら。ユーナは知ってる?」
 そういえば、リョウはあのあとどこへ行ったんだろう。すごくあわただしくタキの病室を出て行ってしまったけど。
「判らないけど、たぶん用意しなくてもいいと思うわ。帰ってきたらその時改めて取りに行けばいいもの。それより、カーヤはここで食べていけるの?」
「ええ、村の女性たちが来て交代してくれたから、今日はもう行かなくても大丈夫よ。だからユーナもゆっくり休んでね。まだ怪我も治ってないでしょう?」
 カーヤに言われて改めて自分の身体に注意を向けると、それだけで急に傷が痛み出したの。歩き回ってる時はぜんぜん感じなかったけど、あたしの怪我はまだちゃんと治った訳じゃなかったんだ。
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