カーヤは出かけるのを少し待って、あたしの部屋で身体を見てくれた。あたしも自分で薬を塗ったりはしてたけど、ちゃんと診てもらったのって最初にローグに治療してもらって以来だったんだ。カーヤがきれいな布をしぼって傷口を拭いてくれる。擦り傷が少しだけ膿んでいたみたいで、触れられるとちょっと痛かった。
「小さな傷だからといって甘く見ちゃダメよ。そこから悪い風が入って死ぬことだってあるんだから」
「ランドも同じことを言ってたわ。リョウが怪我をしてたとき。でもリョウはあたしよりずっと大怪我だったのにもっと早く治ったのよ」
「リョウはユーナより鍛えてるもの。きっと傷の治り方だって早いわよ」
 カーヤはあたしの傷に薬を塗って、それから炊き出しを取りに出かけていった。はっきりとは言ってなかったけど、今回大勢の人が怪我をしたせいで、村の薬が足りなくなってるみたい。きっと神官たちはみんな薬を確保するだけで大変な思いをしているんだろう。
 食卓の準備をしながらカーヤを待っていると、不意に扉がノックされてセリが顔を出していた。
「すぐに帰るからここでかまわないよ。これ、頼まれてた名前。死んだ人から見た続柄別に整理したんだけど、ものすごく数が多くて参ったよ。けっきょく村人の半分くらいが何らかの形で被害を受けたことになるんじゃないかな」
 そう言ってセリが手渡してくれたのは10枚以上もありそうな紙の束だった。きっとセリはほかの神官たちにも手伝ってもらったんだ。そうじゃなかったらこんなに早くこれだけの名前を集めることはできなかっただろう。
「ありがとうセリ。ご苦労さま。たいへんだったでしょう?」
「そりゃあね。でも、祈りの巫女は本当にこの人たちの名前をぜんぶ祈るの?」
「ええ、そうよ。時間はかかると思うけど、それがあたしの仕事だもの」
 答えながら紙を流し見て気づいた。…そうか、あたしセリに「亡くなった人の家族の名前」ってしか頼んでなかったんだ。その中には今回の災厄で怪我をした人の名前がなかったの。だけどセリにそれ以上頼むのは心苦しかったから、そのくらいは自分で調べようって決めた。きっとカーヤに頼んで避難所を回れば少しは判るだろうから。
 セリにもう一度お礼を言って送り出してから、カーヤが戻ってくるまでの間、あたしは今夜するべきことを頭の中で整理していた。
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