あたしに必要なのは、自分のために命をかけてくれる、その人たちの命を受け止める覚悟。それはなんて重いものだっただろう。だけどあたしは祈りの巫女だから、それすらもすべて受け止める義務があるんだ。
 そんな決心をするあたしはずいぶん悲壮さを漂わせていたのかもしれない。タキは気分を変えるように息をついて、久しぶりにいつもの微笑を浮かべたの。
「難しく考えることはないよ。君は今のままで十分村の役に立ってるし、神官は勝手に巫女を守ってるだけなんだから。オレと話したことでよけいに君が落ち込んじゃったりしたら、オレはリョウになにを言われるか判らないからね」
「…リョウは、あたしを元気付けて欲しいって、タキに頼んだの?」
「まあそんなところ。やっぱりね、自分が言うよりも神官のオレが話した方が説得力があると思ったんだろ? リョウにもなりふり構ってるほど余裕はないみたいだし」
「なあに? 余裕って」
「聞いてない? だったらオレが話すのはまだ時期尚早ってことだから黙っとくよ。知りたかったらリョウに直接訊いてくれる?」
 そうしていつもの雰囲気に戻ったタキと話しながら、あたしはいつの間にか心の中にあった重さが軽くなっているのを感じていた。たぶんあたしは、セトが後悔していないって納得することができたんだ。それに、これからあたしを守るために命を落とす人がいたとしても、その命に報いる方法は村のために祈ることだと判ったの。その時のことを想像するとまた心が重くなってしまうけれど、きっと祈るという行為自体が、これからのあたしを支えてくれるはずだから。
「タキ、ありがとう。…やっぱりあたしの担当神官はタキがいいよ。だから早く戻ってきて。…セリには悪いけど」
 タキはほんの少し困ったような表情をしたけど、すぐにまた笑顔を見せてくれた。
「できる限りの努力はするよ。でもまあ、ひとまずセリと仲良くしてやって。奴も奴なりに努力してることだし」
 あとから思えば、このときのタキは既に、自分があたしの担当に復帰できないだろうことを知っていたのかもしれない。
 でもあたしはそんなことは露ほども思わないで、神殿にいる時には必ずタキの怪我が早く治るように祈り続けていたんだ。
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