タキに言われた通り、あたしは部屋にあった椅子をタキの枕もとまで引いてきて腰掛けた。それに合わせてタキも楽な姿勢をとる。あたしは不思議な気分だった。だって、リョウが言ったんだもん。タキとはできるだけ2人っきりになるな、って。
「祈りの巫女、リョウはなんて言ってたの? オレと話せって?」
「ううん。連れて行きたいところがあるから一緒にきてくれ、って。どこに行くとも言ってなかったわ」
「そうか。…それじゃ、祈りの巫女は何のためにここにきたのかも判らないんだ」
 タキは再び溜息をつく。あたしはなんだか居心地が悪い気がして、椅子を立ちかけていた。
「ああ、待って。せっかく見舞いにきてくれたんだ。少し話をしよう。時間は大丈夫なんだろ?」
「ええ。夜までにセリが来てくれることになってるけど、それまでの間は特に何もないわ」
「それならよかった。どう? セリはしっかりやってる? もしかしてオレよりずっと役に立ってるかな」
「…うん、でもまだあんまり勝手がつかめてないみたい。あたしの担当になってくれたのもついさっきだから仕方ないと思うけど」
 タキがいなくなってから、あたしは思うように仕事が進んでいなかった。タキはあたしが言わないことでもぜんぶ先回りしてくれてたんだ。セリが担当になってから、あたしは改めてそのことに気が付いたの。それはけっしてセリが悪い訳じゃなかったけど。
「慣れるまでは2人ともたいへんかもしれないな。ほかの巫女ならともかく、祈りの巫女は少し特別だから。もともとセリはそれほど要領が悪い方じゃないから、慣れてくればちゃんとやってくれると思うよ。機会があったらオレも話しておくし」
 タキはあたしの歯切れが悪いことに気づいたのか、そう言って慰めてくれた。でも、あたしが今までタキとうまくやってきたのは、きっとタキが優秀だからってだけじゃないと思ったの。あたしはタキのことを信頼して、すごく頼ってた。その信頼関係は一朝一夕には作れないもの。災厄が起こる以前からいろいろ協力してくれていたタキだから、あたしはタキにすべてを任せることができたんだ。
「それに、セリもちゃんと神殿の神官だから、自分の役割はしっかり理解してる。神官は巫女のために存在するものなんだ、って。今まで守護の巫女にいろいろ任されてたのだってそれがあったからだしね」
次へ
扉へ
トップへ