あたしとリョウの姿を見て通りかかる神官たちが挨拶をしてくれる。リョウは軽く挨拶を返して、廊下を奥まで進んでいったの。それでようやくあたしは気づいたんだ。もしかしたらリョウは、タキの病室へ行こうとしているのかもしれない、って。
リョウがノックしたのは思った通りタキの病室のドアで、中からの返事を聞いて振り返ったリョウを、あたしは視線に質問の意味を込めて見上げた。リョウは言葉では答えず、ドアを大きく開けてあたしを部屋の中へ導いたの。
ベッドにはタキが以前と同じようにうつ伏せで横たわっていて、両腕で少し身体を浮かせてあたしたちを見上げた。
「ずいぶん早かったね。こんなにすぐに来てくれるとは思わなかった」
「都合が悪かったか?」
「いや、オレの方はこの通り寝たきりだから。祈りの巫女の見舞いならいつでも大歓迎だよ」
そう言って、タキはあたしに微笑みかけてくれる。この会話の感じだと、リョウは長老宿舎を出たあとにまっすぐここへきて、そのあとすぐにあたしを迎えにきたみたい。あたしはさっぱり訳が判らなくて、リョウとタキを代わる代わる見比べてしまったんだ。
「それじゃ、あとは頼む」
「え? もう帰るのか? せめてどこまで説明したのかくらい話していってくれよ」
「なにも説明してない。おまえに任せるからどうにかしてくれ」
「お、おい。ちょっと待てよリョウ…」
タキの慌てたような制止には答えずに、リョウはそのまま部屋を出て行ってしまった。もちろんあたしにはなにがなんだかぜんぜん判らなくて、呆然とリョウのうしろ姿を見送ったの。リョウがあたしをここへ連れてきたかったんだってことはどうにか理解したけど、いきなりこんなところでタキと2人きりにされてもどうしたらいいのか判らないよ。
タキが大きく息をつくのを背後で感じて、茫然自失していたあたしはようやく振り返った。目が合うと、タキはちょっと困ったような表情をして、そのあと心を決めたように微笑を浮かべて言った。
「まあ、とにかくきてくれてありがとう。ひとまずそこにある椅子をここへ持ってきて座ってくれる? その方が2人とも楽だから」
次へ
扉へ
トップへ