それから神殿の書庫に辿り着くまでの間、シュウは自分たちが使っている文字について説明してくれた。それによると、シュウたちは日常的に3種類の文字を使っていて、例えば命の巫女の名前1つにしても3通りの書き方があるんだって。文章は主にその3種類の文字を混ぜて書くんだけど、そのうちの1種類は1000以上も数があって、シュウの村の人たちはそれを覚えるだけで何年もかかるんだ。更にときどき別の2種類の文字が混じることもあるみたい。そんなシュウの話はあたしにはまるで想像がつかなくて、ほとんど相槌も打てずにただ呆然と聞いていることしかできなかったんだ。
この村の文字は1種類で、数も300くらいしかない。だからその話だけでもシュウが言った「機能的でうらやましい」って意味は十分に判ったの。確かに、それだけたくさんの種類の文字を使ってるのなら、あと1種類くらい使う文字を増やしたところでたいしたことはないのかもしれない。
神殿の前まできたとき、まだしゃべり続けようとしているシュウを命の巫女が制して、それでようやくあたしは怒涛の説明から解放された。いくぶんぐったりした気分のまま祈りの巫女宿舎まで戻ってくる。もしかしたら先に長老宿舎を出て行ったリョウが来ているかもしれないと思ったけど、あいにく宿舎にはオミが1人で寝ているだけだったの。でも、少しの間オミの世話をしていると、不意に扉をノックする音がしてリョウが1人でやってきたんだ。
「リョウ、どうしたの? なにか忘れ物?」
「いや。…おまえ、これから少し時間あるか?」
「ええ。夜までにセリが来てくれることになってるけど、それまでは特になにもないわ。オミも今のところ用事はないみたいだし」
「それならオミに断って一緒にきてくれ。連れて行きたいところがある」
あたしは言われた通りオミに断って、リョウのあとについて宿舎を出たの。歩いている間はリョウはなにも言わなかったから、あたしはリョウの背中を見ながら不思議に思っていた。いったいリョウはどこへ連れて行こうとしてるんだろう。方角はどうやら神官の共同宿舎の方みたいだけど、あたしにはリョウの行動の意味がぜんぜん判らなかったの。
やがて神官の共同宿舎まできたリョウは、1度あたしを振り返ったあと、宿舎の扉をノックして中へ入っていった。
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