リョウの言葉はすごく冷静だった。声を聞いているだけだったら、リョウの中にわずかな苛立ちを見つけることもできないくらいに。でも、今までのリョウを知っているあたしには判ったの。次の影の来襲についての対策をまったく立てずに散会しようとしたことで、リョウが会議の内容にものすごく不満を持っているんだ、ってことが。
 尋ねられた命の巫女はとっさに言葉を返すことができなかったから、助けを出すように聖櫃の巫女が答えていた。
「命の巫女はこの村の巫女が持つ力ならすべて使えるといわれているわ。それと時間や空間、人の心なんかを操る力も持っているはず。それがどうかしたの?」
「いや。…だったら、そのすべてを使えると思っていいんだな。俺が聞きたかったのはそれだけだ」
 そう言ってリョウが椅子に戻ると、リョウが投じた一石で新たなざわめきに満たされた会議を、守護の巫女が散会した。
 あたしは今のことをリョウに問いただしたかったのだけど、先に守護の巫女があたしの席にやってきていた。
「祈りの巫女、新しい運命の巫女のことをあなた抜きで相談してしまってごめんなさいね」
「ううん、気にしてないわ。あたしはほかの巫女のことについては詳しくないもの。相談されてたらかえって困ったかもしれないわ」
「午前中ノーラに呼びに行かせたのだけど、あなたは宿舎にいないし、命の巫女もシュウと熱心に話していたらしくて、行き違ってしまったようなの。でもあなたがノエを支持してくれて助かったわ。ありがとう」
 そうか、あたしがノエを支持しなかったら、神官たちはもっといろいろ言ってたかもしれないんだ。守護の巫女が言う助かったって、きっとそういうことなのだろう。
「あたしで役に立てたのならよかったわ。ノエにはこのことは話してあるの?」
「いいえ、これからよ。もしも説得に手間取ったらぜひまた協力して欲しいわ。なんといっても13歳で祈りの巫女になったあなただもの。その存在は私には貴重よ」
 そう、冗談めかせて言ったあと、守護の巫女は歩き去っていた。見回すとリョウは既にいなくなっていて、命の巫女とシュウが聖櫃の巫女と話をしてるのが見えた。
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